開口一番、遺族に謝罪の言葉を口にする元親方。ただ、それは親方としての管理責任を認めたもので、「業務上過失致死罪」にとどまるとの主張だった。大相撲時津風部屋の力士だった斉藤俊(たかし)さん=当時(17)=がけいこ場で死亡した事件で、12日に開かれた初公判。一方、検察側は、元親方の主導による制裁目的のけいこなどが事件の要因で「傷害致死罪」の成立を主張した。遺族は身動きもせず、両者の意見を聞き入った。
「俊君の冥福をお祈りします」。山本順一被告は裁判の冒頭、起訴内容の認否を話す前に陳謝。「部屋の管理に油断があった。俊君の額を傷つけたのは事実だが、兄弟子に暴行の指示はしていない」と述べて傷害致死罪を否認した後、もう一度「おわび申し上げます」と陳謝した。
係官に連れられて入廷した際に一礼し、証言台へ歩く途中でも傍聴席に座る遺族の斉藤正人さん(52)に向かって頭を下げた。俊さんの死に対し反省の意を示しつつ「ぶつかりげいこの指示はしたが制裁目的ではない」「ホースで俊君に水を掛けたのは事実だが、意識をはっきりさせるためで暴行のためではない」と、起訴内容に反論した。
その後の約40分にわたる検察側冒頭陳述の説明は、被告人席の背もたれに体を預けることなく聞き入った。
◆「司法に任せる」 現親方コメント
前師匠である山本順一被告の初公判が行われた12日午前、東京都墨田区の時津風部屋では幕内時天空らが普段通りに朝げいこで汗を流した。
所用で不在の現師匠の時津風親方(元幕内時津海)はコメントを出し「司法の判断に任せるしかないので、裁判の成り行きを見守っていきたいと思います」とした。左ひじのけがで療養中の部屋頭の幕内豊ノ島は「この件については何とも言いようがない」と複雑な表情を浮かべた。
部屋のけいこ場には、傷害致死罪で執行猶予付きの有罪判決を受けた兄弟子3人の名札が、所属力士らとともに今も掲げられていた。
日本相撲協会の武蔵川理事長(元横綱三重ノ海)は「協会としては見守るしかない。司法の判断に任せるしかないでしょう。それ以上は言いようがない」と慎重に発言した。
(中日新聞)