家族らの介護に携わる主婦らが集まり、疲れや悩みを打ち明けるカラオケ店が東京都八王子市のJR八王子駅前にある。介護ボランティア団体に無料で場所を提供。参加者からは「在宅介護では、介護する家族のケアは見過ごされがち。ありがたい支援だ」と歓迎している。 (布施谷航)
「カラオケ館八王子店」。毎月第二火曜日の午後一時、家族を在宅介護する主婦ら十数人が集まる。「母をデイケアに連れて行かなくちゃいけないし、私も医者に行かなくちゃいけないし…」「今のケアマネジャーは変えた方がいいのかしら」。カラオケセットを前に思いを吐露し相談し合う。
カラオケルームの使用料は無料。歌い放題だが、参加者たちは会話に夢中でマイクに手を伸ばす人はいない。防音のため周りを気にせずに本音を話せるという。
「一人で歌ってストレスを発散するのではなく、悩みを共有し合いたいんです」。主催する「八王子介護者を支えるボランティアの会・なごみ」前代表金野祥(こんのよし)さん(60)は代弁する。
同会では当初、カラオケ店でなく別の場所を考えていた。条件は、決まった曜日や時間に利用でき、交通の便がよいこと。昨年二月に市ボランティアセンターから紹介されたのが同店だった。瀬沼伸一郎店長(31)は「社会貢献できるのならと思って喜んで受けました」と話す。
時間は、客が比較的少ない午後一時から四時まで。三時間の利用料は通常十人で六千円程度(ドリンク代を含む)だが、なごみの会は無料。参加者は好意に対し、ソフトドリンク代は支払うようにしている。
金野さんは「ようやく見つけた介護者の居場所。多くの人に参加してもらって、ストレスをためないようにしてもらいたい」と呼び掛けている。
東京ボランティア・市民活動センターの熊谷紀良さんは「カラオケ店が介護者支援のために場所を提供するのは聞いたことがない。公共施設は定期的な利用が難しい面もあり、民間施設がボランティアで協力することは望ましい」と話す。
兵庫県宝塚市のカラオケボックス火災、大阪府ミナミの個室ビデオ店火災など、多発した個室型店舗での火災が逆風となったカラオケ店。こうした中、さまざまな利用法で生き残りを図る店が増えている。
全国カラオケ事業者協会(東京都品川区)によると、都心部では、貸会議室や楽器の練習場としても運用。また、幅広い年齢層をターゲットにカルチャークラブを展開する大手カラオケ店もある。
片岡史朗専務理事は「公民館的な役割も果たすようになっている」と話す。
社会貢献をするのも差別化の一つ。役所と協力して高齢者の利用料を割り引き、お年寄りに交流の場を提供しているカラオケ店もあるという。
(東京新聞)