ビデオリサーチ社が、視聴率の新たな測定技術を紹介するフォーラム「データビジョン2009」を5、6日、都内で開き、これまで集計できなかった「録画による視聴率」などを測定できる装置などを公表した。現行の視聴率が実態を反映できていないという批判に応えた新技術だが、導入には課題もあるようだ。(辻本芳孝)
視聴率は、〈1〉自宅で〈2〉据え置き型テレビを〈3〉番組放送時に見る——という前提で調査が始まったが、視聴環境は激変した。携帯電話向けの地上デジタル放送(地デジ)サービス「ワンセグ」や、チューナー内蔵パソコンなどによる視聴、ビデオやDVDなどでの録画視聴など、1961年の調査開始当時は想定していない視聴形態が増えた。
フォーラム会場では、すでに技術が確立した新測定機器として、録画番組の視聴時にテレビから出る音声をデータベースと照合することで、どの番組を見たかを判定できるシステムの試作機を紹介。また、チューナー内蔵パソコンによるテレビ視聴を測定できる新機器も置かれた。
さらに、ワンセグ対策として、視聴者が自分で視聴データをウェブ上で記録して送信する方法や、携帯電話近くにつけたセンサーで音声を把握し照合する方法など構想段階の技術も提示。このほか、番組映像や音声に「透かし」と呼ばれる電子データを埋め込み、視聴番組を把握する、より精度の高い次世代の技術も紹介した。
講演したビデオリサーチの尾関光司・テレビ事業局長代理は、「技術開発だけでなく、調査の方法や運用を詰める必要がある。広告主企業やテレビ局などユーザーとの合意の下、検討したい」と語った。
ただ、導入には課題もある。2011年7月の地デジ完全移行に向け、新たな視聴率の定義を検討する「視聴率検討ステアリング・コミッティ」は4日の会合で、ビデオリサーチの新技術が報告された。構成する日本アドバタイザーズ協会、日本民間放送連盟、日本広告業協会の3団体は、実態に即した視聴率が必要な点では合意している。パソコンによるテレビ視聴調査については、「信頼できる技術水準に達し、導入に向けて動きやすい」と前向きに検討する姿勢を示した。
一方で録画視聴の測定については、「透かし技術を使うシステムの方がレベルが高い」などの意見が出て、当面、技術の進歩を見極める構えだ。
コミッティ事務局は「テレビ局も広告主企業も不況に直面している。どの技術導入に資金を出すかなどユーザー間でも食い違う点もある」と内実を明かす。確かに、録画視聴の測定も盛り込んだ新たなシステムを構築するとなると、多額の投資が見込まれる。
フォーラムで行われたパネルディスカッションでも、フジテレビの小川晋一・編成担当局長が「番組への視聴者の支持を示すリアルな数字は欲しいが、どれだけ低廉なコストで頂けるかは重要」と語った。不況が逆風となり、視聴率改革には、まだ時間がかかりそうだ。