「ネットブック」と「スマートフォン」の話題で明け暮れた2008年に対し、09年のトレンドはどうなるのか——YOMIURI PCでおなじみの3人のテクニカルライターに、展望を語ってもらった。(司会・山野辺一也=YOMIURI PC編集部)
佐々木「『手軽に使えるコンパクトなパソコンが欲しいけれど高価なモバイルノートは買えない』という人が多かったのでしょう。09年は同じ値段で性能が向上し、出荷台数も増えていくはずです。ネットブックは、簡単に持ち運びができてネットワークにつながるという意味で、“パーソナルコンピューターの父”といわれるアラン・ケイが1970年代に提唱した『ダイナブック』本来の姿に近いと思います。将来的にはA4ノートやデスクトップの方が、特殊な存在になるかもしれません」
三上「量販店に行くと、パソコン売り場はがらがらです。その中で唯一にぎわっているのが、ネットブックのコーナー。しかもオジサンが多い(笑)。登場から1年が過ぎ、性能も上がってきているので、初心者の目もネットブックに向いてしまうのでしょう。やっと一般的になってきた、と思います。その反動なのか、10万円程度のノートが売れていない。ここは今、技術的に高度ないい製品が集まっている価格帯なんですが」
小野「問題はメーカーの体力がどこまで持つか、ではないでしょうか。ネットブック自体のスペックはどんどん上がっているわけで、(高価なパーツを使う分)メーカー側の利幅は小さくなっています。この状況が続くと、存続が危なくなるメーカーが出てくる恐れもあるのではないでしょうか」
三上「NTTドコモのブラックベリーが間もなく登場して、これまでのマニアックな層よりは広がるでしょう」
佐々木「ただ、メールの使い勝手、携帯サイトが使えないことなど、日本の携帯電話の文化には合わないのでは」
三上「確かにスマートフォンは、携帯ユーザーよりもパソコンユーザーの方を向いた機能を盛り込んでいます」
小野「通信機器というよりも、ゲーム端末になっている状況もありますしね」
佐々木「パソコンユーザーとしてはむしろスマートフォンよりも、ネットブックがもっと軽くなり、通信機能を内蔵することを期待したいです」
小野「注目は『Office』です。次期バージョン『14』の一部がウェブアプリでも提供されるという情報がありますが、既に『2007』のオンライン試用版は体験できます。これが意外とサクサク動く。14も期待できるのでは。マイクロソフトはネットサービスの『Windows Live』も一新し、ウェブサービス拡充に向かっているのは間違いありません」
三上「マイクロソフトのドル箱は、実はOSではなくオフィスです。これだけ高いソフトがこんなに長い間売れ続けたことはない。現在アナウンスされているように、オフィスの機能の一部でもウェブアプリとして提供されることになれば、今までの常識が覆ることになりますね。マイクロソフトが本気でやるとしたら、ソフトの世界を変えるだけでなく、ネットブックとの連携でハードウエアにも大きな影響を与えていくでしょう」
佐々木「月払いでソフトの使用権を売るような、新しいサービスが出てくる可能性もあります」
三上「しかし広告収入でやろうとすると、結局グーグルの広告頼みということになる。これはかなりいびつな構造です。パソコン用のソフトを携帯ユーザーに開放して、そこに課金するようなシステムも必要ではないでしょうか」
佐々木「ウェブアプリでは、プライバシーや情報流出が問題になっているのも見逃せません。ユーザーも、自己防衛の方法を考えるべきですね」
小野「課金コンテンツは苦戦していますね。残っているのは無料動画だけです」
三上「アニメなどを、初回分だけニコニコ動画で放映して反応を見るというやり方は一般的になりました。ブームの起爆剤にはなり得ますね」
佐々木「最近はユーザー側の感性に依存した『意図しないヒット』ばかりで、サービスを仕掛ける方はやりにくいと思いますよ」
佐々木「秋には無線LANの11nが正式な規格になると見られています。草案に基づいた製品は既に出ていますが、正式版になれば製品の選択肢も増えますし、安心して購入できます」
小野「SSDには注目しています。ノートで一般的に使われている2・5インチHDDの代わりに搭載すれば、圧倒的に速いですからね」
佐々木「60GBで1万円台と、値段もこなれてきました。ただ、安いものはそれなりに性能も低い」
三上「対策の方で注目しているのは、トレンドマイクロの動きです。09年からウイルス定義データベースをネット上に置くことにしていますが、これまでのようにローカルでパターン更新をする必要がなくなるので、対策ソフトを使う立場としては助かりますね」。(2009年1月24日発売「YOMIURI PC」3月号から)