2009年02月11日(水) 18時39分
家裁が犯したもう一つの過ち 暴力肯定的価値観(産経新聞)
金属バットで通行人の頭を殴り財布を強奪した17歳の高校2年生の話の続きである。暴走族仲間のために「金策」の必要があったにせよ、バットで通行人の頭まで殴るものかという素朴な疑問を抱く人が圧倒的に多いだろう。
相手の人が死亡すれば、強盗殺人で無期懲役になり、一生刑務所暮らしかもしれないし、賠償金も親子で支払いきれないほど多額に上るだろう。「いい格好できて暴力団の幹部にのし上がるチャンスどころの騒ぎじゃない」というのが普通の大人の感覚である。
しかし、「暴力肯定的価値観」をしっかり身につけていたこの少年はそうは考えなかった。「無関係の人に、命にかかわるほどの暴力を振るうことができる度胸」こそが周囲からの称賛を集め、畏怖(いふ)させ、それが自分の将来の利益につながると確信していたのであった。
そのような価値観は、幼児のころから父親の暴力による「しつけ」を受け続け、中学2年生の夏、腕力で父親をたたき伏せた歴史がはぐくんだものであった。
中2の夏、地域の暴走族と遊び、走っているバイクを強奪する事件を起こし、初等少年院に入れられた。この時が、「暴力肯定的価値観」を矯正する最初の「チャンス」だったが、家裁が短期処遇を選択したのが惜しい。
短期は5カ月ほどの処遇であるため、基本的生活習慣の改善止まりになってしまうことが多い。この少年も、小学校時代にさかのぼって算数や国語の勉強に励み、毎日学習する習慣が身についた。
そして半年後、中学3年生の春に仮退院し、不良仲間とも付き合わず、受験勉強に励んだ。もし、普通の高校に合格しておれば、いつの間にか価値観が変化している可能性もありえた。ところが、定時制の高校にしか合格できなかったため、本人なりに落ち込んだ。そこへ、暴走族から誘いがあったので、週末暴走に参加し始めた。
もう一つ、家裁は過ちを犯している。中2のバイク強奪事件は、少年が営々として身につけてきた「暴力肯定的価値観」の発露そのものであったことが分かっていたのに、審判で親子にその説明をすることを怠ったのである。
両親は、今回の事件で頼んだ付添人弁護士が、家裁の記録を読んで、前回も今回も同じく父親の暴力的しつけが原因だと説明してくれて、初めて納得がいったのであった。(弁護士、元家裁判事 井垣康弘)
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