記事登録
2009年02月11日(水) 18時24分

乳児4遺体、女性は自殺 謎が深まる都会の闇産経新聞

 東京都大田区のアパートで一人暮らしをしていた女性の部屋で1月下旬、白骨化した乳児4人の遺体が発見された。この2日前には女性が生活苦を理由に自殺。女性には結婚歴や出産記録がなく、遺体は誰の子供なのか真相は闇に包まれたままだ。「1〜2カ月、姿を見かけなくなることがあった」。近隣住民は女性の奇妙な生活習慣に疑問を抱いていたが、乳児の存在を見抜けなかった。生まれたばかりの小さな命は、女性の身勝手な振る舞いと、他人に無関心な都会の犠牲になってしまったのか−。

 1月25日午後4時ごろ、大田区池上のアパート2階に住む無職女性(51)の部屋を、女性の妹夫婦が訪れていた。

 女性はその2日前の23日午前10時ごろ、大田区南蒲田の公園のトイレで首をつって自殺しているのが見つかった。妹夫婦は遺品の家具などを整理し、部屋を明け渡すだけで済むはずだった。

 ところが、部屋の片づけを始めてすぐに異臭に気付いた。においの元は押し入れ上部の天袋。そこをのぞき込むと、肉片のようなものが入ったポリ袋が無造作に置かれていた。

 「何なんだこれは。もしかして…」

 妹夫婦の通報で警視庁池上署員が駆けつけ、4個のポリ袋を確認。何重にもくるまれた袋を取り外すと、いずれも乳児の遺体が出てきた。

 「姉に子供がいたというのは聞いたことがありません」

 妹夫婦は戸惑いを隠せなかった。自殺を図ったトイレに残されていた遺書にも乳児のことは一切触れられていなかった。遺書は母、妹、アパートの大家あての3通。

 〈金策に走ったが、うまくいかなかった。ごめんなさい〉

 大家あての遺書にはこう記されていたという。

 アパートの部屋は6畳の和室、3畳の洋間、3畳のキッチンという間取りで、家賃約7万円。女性は家賃を20カ月以上滞納し、大家から未払い分の支払いと立ち退きを求める民事訴訟を起こされていた。借金も数百万円あったようだ。

 自殺した23日は、訴訟で女性側が答弁書を提出する期限だった。

 4遺体は誰の子供で、いつ死亡したのか。

 2つはバスタオル、1つは新聞紙に包まれ、もう1つはプラスチック容器に入っていた。ほとんど白骨化した状態で、警視庁の司法解剖の結果、少なくとも死後5、6年以上経過しているとみられる。

 DNA鑑定で、さらに女性との血縁関係を調べているが、「結果が出るまで1〜2カ月かかる」(捜査幹部)という。

 大家によると、女性は平成8年ごろから同じ部屋で一人暮らしをしていた。保険会社の外交員をしていた時期もあり、2年ほど前に家賃の滞納が始まった際には、こう頼まれたという。

 「給料の支給が遅れているので家賃を払えない。ボーナスが出るまで待ってほしい」

 この申し出を、大家は特に気に留めなかった。顔を合わせれば「払えるめどが立ったのなら早く払ってほしい」などと要求することもあったが、部屋まで押し掛けて督促することはなかったという。

 「10年間も毎月きちんと払ってもらっているのだから、苦しいときはお互い様だと思った」

 大家はこう振り返る。

 だが、そのまま20カ月以上の長期間に渡って滞納が続いた。大家が女性の姿を見たのは昨年8月ごろが最後だが、このときも何らかの仕事で収入が見込めるような口ぶりで、生活に困っている印象はなかった。

 10月下旬には、家賃2カ月分の現金と手紙の入った封筒が大家宅の郵便ポストに入れられていたという。

 女性にしてみれば、家賃を滞納し、居心地が悪くなっても、このアパートに住み続けなくてはいけない理由があったのだろう。何しろ乳児の遺体が隠されていたのだ。

 「美人なのに独身なんてもったいないなあ」

 ある日、大家の親族が女性に声を掛けると、女性は子供好きの一面をのぞかせた。

 「私は結婚をしていないけれど、休日に妹夫婦の子供の面倒を見るのが好きなんですよ」

 近隣住民らによると、女性は小柄で極端にやせていた。

 「化粧もせず、髪を伸ばしっぱなしだった。洋服は洗いすぎて色あせたようなものを着ていた。男性の存在を感じたことはない」

 無職の男性(66)は女性の容姿を思いだしながら、こう話した。

 女性の妹も「男性にちやほやされるようなタイプではなかった」と話す。

 女性の周辺に、妊娠している姿を記憶している人はいない。

 一方、朝や夕方にアパート近くをぶらぶら歩いているのを目撃されることが多かったが、突然1〜2カ月間にわたって姿をくらますことがあったという。

 「忘れたころに戻ってくる。『しばらく見掛けないな』と思っているとまた見掛ける。それが1年に1回ぐらい。引っ越してきた当時からだと思う」

 そう話すのは近所の女性(57)だ。

 自営業女性(64)は毎朝店の前の掃除をしていて、女性とすれ違っていたという。

 「そういう日々が半年ぐらい続くと、1〜2カ月会わなくなる。5年ぐらい前からそういうことがあった」

 女性が姿をくらませている間、どこで何をしていたのかは明らかになっていない。女性に直接問いただした人も見当たらない。ただ、この奇妙な生活習慣のカギは「乳児の遺体」である可能性が高いようだ。

 「せめて遺書に何か書き残していてくれれば、捜査しやすいのだが…」

 警視庁は死体遺棄容疑で調べているが、捜査幹部は困惑している。

 都会の隅でひっそりと生まれ、朽ちてしまったとみられる4つの命。周囲に相談した形跡もないまま、自ら命を絶った“同居人”。浮かばぬ父親の存在…。歪(ゆが)んだ事件の闇は深い。

【関連記事】
乳児置き去りで飲食店員の女を逮捕 大阪
床にたたきつけ乳児死なす 福祉施設職員の母逮捕
首の皮膚変色、絞殺か 大阪のポリ袋入り乳児遺体
ベッド下に乳児遺体 福島、遺棄容疑で女を逮捕
乳児遺体遺棄容疑で母逮捕 段ボール箱に隠す

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090211-00000559-san-soci