2009年02月11日(水) 09時51分
「マルチ界の教祖」L&G波容疑者の素顔と組織の実態は?(産経新聞)
全国3万7000人から総額約1260億円を集めたとされる健康寝具販売会社「エル・アンド・ジー」(L&G、東京都新宿区、破産手続き中)。警視庁などの特別捜査本部に組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)容疑で逮捕されたL&G会長の波和二(かずつぎ)容疑者(75)は、巧みな話術とカリスマ性を武器に「マルチ界の教祖」とまであがめられた。疑似通貨「円天」に代表される金融商品とマルチ人脈で資金集めに奔走する一方、「コスモガール」を従える派手さも。L&G関係者らの証言から見えてきた波容疑者の素顔とその組織とは…。
【写真】早朝から居酒屋でビールを飲む波容疑者
■前代未聞の逮捕劇
「どいた!! 下がって、下がって!!」
2月5日午前8時35分。東京都新宿区弁天町の小料理屋に、怒号が飛んだ。
報道陣をかき分けて店内に入った捜査員らは、スーツのポケットから取り出した警察手帳を示すと、店の奥に座っていた波容疑者に任意同行を求めた。
覚悟を決めていたのか、おとなしく応じた波容疑者。だが、店内外に50人以上いた報道陣は警察車両に乗り込むまでのわずか数十メートルの間、波容疑者に質問を浴びせ、フラッシュをたき、もみくちゃになった。顔にカメラが当たり、思わず気色ばむ波容疑者。そのすべてがカメラに記録される前代未聞の逮捕劇だった。
警視庁によると、波容疑者ら22人の逮捕容疑はこうだ。
波容疑者らは出資金の元本返済や配当をする意思や能力がないのに、平成18年7〜12月に7回、鹿児島市で開催した説明会などで「L&Gには数十億円の売り上げがある。3カ月ごとに9%(年利36%)の利息を支払う」などとうそをつき、鹿児島県霧島市の自営業の男性(69)ら男女の会員6人にL&G名義の口座に計1億1800万円を振り込ませ、だまし取った疑い。
警視庁などが平成19年10月、出資法違反(預かり金の禁止)容疑でL&G本社や波容疑者宅を家宅捜索してから、1年4カ月後の逮捕だった。
任意同行の約2時間前、波容疑者は小料理屋の前で報道陣を集め、“にわか会見”を開いた。
「歴史始まって以来の大詐欺師の顔を撮って」
おどける波容疑者。しかし、報道陣から「出資者に申し訳ないと思わないのか」と問われると、「ない!」と言い放った。
波容疑者の「否認」は一貫している。
産経新聞が昨年11月、波容疑者を取材した際、こう話していた。
「テレビ局の記者にいわれたよ。『今まで強制捜査された被疑者でね、波さんが一番堂々としてると評判ですよ』って。そりゃ堂々とするよ。おれは悪いことしてへん」
■コスモガールって?
「会長は『一度捕まったから、もうマルチには進まない』と話していた。社会貢献をめざす会社を立ち上げると言っていたのに」
L&G関連会社の設立にかかわった男性はそう振り返る。男性は広告業界に長く身を置き、波容疑者から会社のPRに力を貸してほしいと頼まれたという。20年も前のことだ。
L&Gの運営に当たり、波容疑者がスカウトしたのは1人や2人ではない。広告業界や金融業界の専門家はもちろん、役員には大手建設会社の元エリート社員もいた。
その中でも、特に目立ったのは波容疑者の「マルチ人脈」だ。
波容疑者がマルチの世界で名前が知られるようになったのは、30代のころ。昭和40年代に国内初のマルチ商法として社会問題化した自動車部品販売会社「APOジャパン」の中心メンバーとして頭角を現した。
APOを退社後、「ノザック」という会社を設立。水道水をミネラルウオーターに変えるという「麦飯石(ばくはんせき)」のマルチ商法を始めたが、53年に詐欺容疑で逮捕され、実刑判決を受けた。
「おれは完全に無罪なの。冤罪(えんざい)の証明はいつでもできる」
波容疑者は取材の際、こう訴えていた。
出所後の62年に設立したのがL&Gだ。営業担当社長を務めたのは、ノザック時代にも一緒に逮捕された寺嶋惇容疑者(64)。沈没船引き揚げをうたって巨額資金を集めて逮捕されたリッチランド元会長も、初期の役員に名を連ねていた。
マルチ業界で40年間生きてきた「帝王」。他のマルチ会社にライバル心を募らせることもあった。
昨年7月、エビ養殖をうたった詐欺事件で逮捕された黒岩勇被告(60)=組織犯罪処罰法違反罪で公判中=率いる「ワールドオーシャンファーム」とは活動時期が同じだっただけに、会員獲得をめぐって綱引きを繰り広げた。
「金融商品の連中はずいぶん倒産したでしょ。全国八葉物流とか、リッチランドとか、黒岩のとことか。ああいうのは(配当を)1年で倍とか1・5倍つける。うちのは1年で36%で、ものすごい低い。でもうちは20年も続いている」
波容疑者は取材にこう自負してみせた。
波容疑者のスカウトはキャバクラ嬢にまで及んでいたという元幹部の証言もある。
元幹部によると、波容疑者は役員とともに六本木のキャバクラに繰り出し、気に入った若い女性を連れてきて社員にしていた。「コスモガール」と呼ばれた彼女たちは20人以上いたといい、会社が家賃を補助するマンションに住んでいた。
給与のほかに手当ても支給される特別扱い。社員がコスモガールに注意しようものなら、逆に波容疑者にしかりとばされたという。
■被害を拡大させた「円天」
こうしたマルチ人脈などで組織づくりをした波容疑者は、平成12年から事業の柱を健康ふとんなどの物販から出資金集めに切り替えた。
商品は、年36%の高配当と元本を保証する「協力金」や、3年で元本が倍になる「あかり価格」など。その中でも、波容疑者が自らのマルチ人生の集大成として思いついたのが、16年に導入された同額の疑似通貨「円天」を受け取れる「円天受取保証金」だ。
円天は会員が10万円以上を入金すると、元本保証に加え、入金額と同額の「円天」が毎年1回もらえるシステムで、加盟店やバザーで日用品や食料品と交換できた。
「夢で(円天を)思いついた」
取材にこう語っていた波容疑者。買い物の際に現金を用意しなくてよい手軽さに加え、高齢者にも急速に普及した携帯電話を利用した点も「新しい」と受け入れられた。
L&Gが作製した「The 円天 Life」と題したDVDには、「円天市場」と呼ばれるバザー会場で、喜々として買い物をする会員と、あまりの売れ行きに喜ぶ加盟店の姿が映っていた。
波容疑者は円天を通貨の代わりとして使うだけでなく、「貧乏な人を救い、世界を平和にする」とまで主張していた。
「円天という電子マネーを使った目新しさが、被害を大きくした」
被害対策弁護団長の千葉肇弁護士はこう指摘する。
12年から7年間で集めた出資金は約1260億円。昭和62年の豊田商事、平成14年の全国八葉物流に次ぐ規模だ。このうち約423億円が会員に返還されていないという。
■著名人が「広告塔」
破産管財人によると、多様な金融商品とともに、出資金集めの拡大に一役担ったのが関連18法人だ。
「あかり価格」を扱う「エル・アンド・ジーあかり」や、円天を発行する「日本アーク協会」などは出資金集めの窓口となった。
波容疑者の長男、勝詞容疑者(39)が代表を務めていた「デジタルウエーブ」はDVD制作や会員向け説明会の運営を担当、会員への説明の場を提供していた。李得柱容疑者(63)が取締役を務めていた「エス・アール・オー・エリート」はあかり価格のシステム開発を担っていた。
また、リラグゼーションサロン経営の「グッド・フォーチュン」や、市場調査を行う「エスアール・ユニオン」など活動実体がない法人も多かったが、警視庁などは、波容疑者はL&Gが一大グループであることを示し、出資金勧誘に利用していたとみている。
これら関連法人で特筆すべきものが、NPO法人「あかり研究所」だ。
コンサートや講演会を開催する法人で、出資者向けに開催された「あかりコンサート」には演歌歌手の細川たかしさんらが出演した。
「L&Gは歌手のコンサート、有名大学教授の講演など、そういった舞台装置がきちっとしていて、信用できるシステムを作った」
千葉弁護士の指摘だ。
被害者の一部は昨年5月、「広告塔として被害拡大に関与した」などとして、L&G関連のコンサートや講演会に出演した細川さんや大学教授らに損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。
また、波容疑者は説明会などでも著名人を引き合いに出しながら、相手を信用させる話術を展開した。
芸能人や学者ら華麗な人脈を話にちりばめる。前述の「ノザック」時代の話をする際には、こうだ。
「松下幸之助さんを除くナショナルの役員14人に話を聞いてもらい、(麦飯石を)共同開発することになった。特許はぼくが持っている」
L&G元幹部の証言。
「著名政治家の名前を出し『選挙に金を出した』とか、はったりがすごい。でも、堂々と話すからだまされる人は多かった」
自らを歴史上の偉人になぞらえることも。
「エジソンも最初は詐欺師といわれていた」
「元寇を予言した日蓮のように、おれも世界経済の混乱を予言し、円天を作った」
■続く「円天思想」
日本円に代わり、国家が「円天」を新たな通貨に採用すれば、貧富の差はなくなる−。こうした壮大な計画を口にしていた波容疑者。この計画は波容疑者の逮捕とともに消えるわけでもないらしい。
「同じ天命(天からの定め)をもつ」
波容疑者は逮捕前、円天加盟店だった川崎市の男性(55)を“後継者”に指名。男性は週2回、波容疑者のマンションに通い、波容疑者から「円天思想」を伝授された。男性は「円天研究会」なる団体を主宰し、波容疑者の逮捕後も勉強会を開いて「円天思想」の普及に努めている。
現在までに出資を募った形跡は確認できないが、波容疑者のブログを書籍化して販売するなど思想の普及とともに“収益確保”にも努めている。波容疑者も、ブログの中で円天思想に共鳴する人は寄付するよう書き込んでいた。
「破綻(はたん)したシステムなのに、なぜ続行させたうえ寄付を募るのか。理解に苦しむ。純粋に信じているのだろうか…」
千葉弁護士は首をかしげる。
逮捕を予期して、事前に書きためていた波容疑者のブログは今も更新され続けている。
世に詐欺話の種は尽きない。
「マルチというのは、最初に始めた人がもうかる仕組み。今度は自分がもうかるグループに入ろうとして、新たなマルチを始める可能性もある」
千葉弁護士はこう指摘しており、被害者の中から新たな加害者が生まれる可能性があるとして、注意を呼びかけている。
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http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090211-00000531-san-soci