記事登録
2009年02月11日(水) 21時28分

非核三原則 封印された核武装議論産経新聞

 ■核武装は議論も封印

 日本自身の核武装も議論すべきだという問題提起は、国会議員の間でしばしば行われてきたが、その度に問題化し、議論そのものが封じ込められてきた経緯がある。

 平成11年10月、小渕内閣の防衛政務次官だった西村真悟は週刊プレイボーイ誌で、核武装の可否について「国会で検討してはどうか」と発言し、辞任に追い込まれた。西村は核武装の議論自体が封じられてきたことを「情けない。マスコミは何で騒ぐのか、分からないまま大騒ぎを繰り返す」と嘆く。

 14年2月には、小泉内閣の官房副長官だった安倍晋三が早大での講演で「非核三原則があるからやらないが、(小型の)戦術核を使うことは昭和35年の岸信介首相の答弁で『違憲ではない』とされている」と述べた。安倍は「自衛のための最小限の核兵器保有は憲法上、許される」という政府見解を紹介したにすぎなかったが、サンデー毎日は「ものすごい中身」と取り上げ、騒ぎとなった。

 安倍は今、「私の発言に驚いた人は勉強不足で情緒的だった。核兵器はその抑止力や役割、機能を現実的に評価・認識した上で、削減・廃棄を追求していかないといけない。だが、日本ではそうした冷静な分析、戦略的な議論もできない」と語る。

 14年4月には、自由党党首の小沢一郎が講演で、軍事力増強を続ける中国を批判する文脈で「(中国が)あまりいい気になると日本人はヒステリーを起こす。日本がその気になったら一朝にして何千発の核弾頭ができる」と述べた。

 さらに5月、小泉内閣の官房長官だった福田康夫がオフレコ懇談の席上、「憲法も変えようという時代だから、非核三原則も、国民が(核を)持つべきだとなったら、分からないかもしれない」と述べ、野党などから批判を浴びた。

 北朝鮮が計7発の弾道ミサイルを発射した18年、自民党政調会長の中川昭一が10月のテレビ番組で「非核三原則は守るが、議論は大いにしないと」と述べて問題化した。このとき、外相の麻生太郎は「論議することまで止めるのは言論封殺といわれる」と擁護した。中川は「最近の日本は非核三原則ではなく、『言わせず』、『考えさせず』を加えた非核五原則となっている」と語っている。(敬称略)(阿比留瑠比)

 ■非核三原則には「法的根拠」があるか

 非核三原則は憲法や法律に明記されておらず、基本的には政府の方針にすぎない。三原則のうち「つくらず、持たず」の憲法との関係については、「自衛のための必要最小限度を超えない実力を保持することは、核兵器であると通常兵器であるとを問わず、9条2項の禁ずるところではない」というのが政府の解釈だ。

 法律としては、原子力基本法2条に「原子力の研究、開発および利用は、平和の目的に限り…」と明記。条約上は、日本は米、英、仏、露、中5カ国以外の核兵器保有を禁じた核拡散防止条約(NPT)に加盟している。仮に日本が核兵器を製造、保有するなら同法は改正し、NPTを脱退しなければならない。

 一方、「持ち込ませず」については法律上も条約上も何ら規定はない。(高橋昌之)

 ■中国は818発の核ミサイル 日本周辺の核の脅威

 日本は周囲を核保有国に囲まれている。

 英国の国際戦略研究所(IISS)の年次報告書「ミリタリー・バランス」などによると、ロシアは3506発の核弾頭と760基の核ミサイル、中国は核弾頭数は不明だが、818基の核ミサイルを保持。日本に届く中国の大陸間弾道ミサイル(ICBM)は20基、中距離弾道ミサイル(IRBM/MRBM)は35基で、核兵器を搭載して日本に飛来可能なH6中距離爆撃機も100機以上にのぼる。

 一方、平成18年10月に核実験成功を発表した北朝鮮は、日本のほぼ全土を射程に収める弾道ミサイル・ノドンを90基以上配備。さらに射程の長いテポドン1号、グアムやアラスカなど米領土の一部も射程に入るテポドン2号を開発中で、核弾頭の開発・搭載に成功すれば日本にとっては大きな脅威となる。

 ■そもそも日本の核武装は可能なのか

 日本の核武装は可能なのか。政府部内で非公式に検討が行われたことがあった。平成18年9月20日付で作成された「核兵器の国産可能性について」と題する内部文書は「小型弾頭を試作するまでに最低でも3〜5年、2000億〜3000億円の予算と技術者数百人の動員が必要」と結論づけている。

 それによると核弾頭の材料は広島型の高濃縮ウランか、長崎型のプルトニウムが想定される。国内には青森県六ケ所村の日本原燃ウラン濃縮工場や茨城県東海村の日本原子力研究開発機構東海事業所といった施設があるが、いずれも軽水炉用で、核兵器級の原料をつくるのは事実上不可能または現実的ではないという。

 原材料をつくれたとしても、起爆可能な核弾頭にすることができるか。「日本の技術力では十分可能」だが、「核実験をせずに完成させるには、時間と費用がさらにかさむ」という。

 核軍縮・不拡散が専門の秋山信将(のぶまさ)一橋大准教授(国際政治)は「北朝鮮のような瀬戸際的核政策をとるならまだしも、数百発の核を持つとされる中国などに対し、日本単独で抑止能力を構築しようとすれば、相当規模の核戦力が必要で、それを整備するための期間、コストは想定しようもない」という。核武装に伴い核拡散防止条約(NPT)を脱退すれば国際的に大きな批判や制裁を受けることが想定される。秋山氏は「現状で日本が核武装するメリットは安全保障上も、外交上もない」と語る。(赤地真志帆)

 ■佐藤・マクナマラ会談では何が?

 佐藤・マクナマラ会談 昭和40(1965)年1月、佐藤栄作首相が初訪米した際、マクナマラ米国防長官と会談。マクナマラ長官は前年10月の中国の原爆実験成功に触れ、「今後2、3年でいかに発展するか注目に値する」と指摘、「問題は日本が核兵器の開発をやるかやらないかだ」と述べた。佐藤首相は「日本は核兵器の所有あるいは使用について反対だ」と強調。そのうえで「戦争になれば話は別で、米国が直ちに核による報復を行うことを期待している」とし、「(日本の)陸上に核兵器施設を造ることは簡単でないかもしれないが、洋上のものならば直ちに発動できるのではないか」と述べた。(高橋昌之)

【関連記事】
【因数分解】佐藤−マクナマラ会談 核の先制使用を念頭
【外交文書公開】核武装を「カード」にした佐藤首相の瀬戸際政策
【外交文書公開】核非武装宣言は「柔軟性失う」 外務省が否定的見解
露との核軍縮交渉最優先に キッシンジャー氏が寄稿
核管理不能事態も想定 北朝鮮問題で在韓米軍司令官

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090211-00000593-san-pol