何よりも身の安全の確保が重要だ。そんな国民の当たり前の気持ちが、素直に反映された。
イラク地方選で、マリキ首相を支持するイスラム教シーア派の穏健政党連合の躍進が確実となった。
首相は昨年、バグダッドや南部バスラで、シーア派民兵の掃討作戦を実施し、治安改善を導いた。それが評価された。
宗教色を薄め、イラク・ナショナリズムを前面に打ち出して国民融和の必要性を訴えた首相の主張も、支持を得た。
フセイン政権の崩壊後、イラク情勢が混迷を極めた背景には、宗派間の厳しい対立があった。それを放置している限り国家再建は不可能だと、イラク国民が的確な判断を下した結果だ。
前回の選挙でその大半がボイコットしたスンニ派が選挙に参加したことも、明るい材料だった。
イラク情勢の先行きを懸念していた国際社会にとっても、勇気づけられる選挙だったと言えよう。この重要な一歩を足場に、これまで以上にきめ細かな支援を続けることが重要だ。
マリキ首相派が勢力を伸ばしたのとは対照的に、同じシーア派の最大政党である「イラク・イスラム最高評議会」は、後退を余儀なくされた。
最高評議会はもともと、フセイン政権の弾圧を恐れてイランに亡命した法学者らがイランで創設した政治組織だ。その敗北は、シーア派国家イランの影響力が拡大することに、国民が警戒感を示した結果と言える。
治安改善の実現は、イラク治安部隊の強化が順調に進んでいることの証左ではないか。16か月でイラク撤退を表明しているオバマ米政権にとっても、朗報だろう。
しかし、まだまだ多くの難題が山積している。
選挙は、クルド人自治区の3県と、帰属問題が未解決の産油地キルクークを抱える県では実施されなかった。今後、石油をめぐるクルド対アラブという民族対立にどう対応するか。
マリキ政権は、宗派や民族の間でくすぶる火種を一つ一つ、公平に処理していくことが大事だ。
イラクでは依然、電力供給や給水がままならず、失業率も相変わらず高止まりしている。
選挙で、「政治」に対する一定の期待感が表明された。だが、暮らしに直結する問題の打開に手間取れば、国民の忍耐はいつまでも続くまい。迅速な民生向上策が求められる局面だ。
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20090210-OYT1T00028.htm