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2009年02月10日(火) 19時19分

【テレビ評】「天地人」第6回、敵を斬らずに味方を斬るツカサネット新聞

戦国武将・直江兼続の生涯を描くNHK大河ドラマ「天地人」第6回「いざ、初陣」が2009年2月8日に放送された。今回の放送では上杉謙信(阿部寛)が織田信長(吉川晃司)を討つために越中に侵攻した。この戦いは兼続(妻夫木聡)の初陣でもあった。映画監督の三池崇史が上杉景虎(玉山鉄二)の家臣・刈安兵庫役で出演する点も注目される。

初陣に張り切る兼続であったが、命乞いをする若い兵士を斬れず、逃がしてしまう。その後も戦で活躍することはなかった。今回の放送ではスポットライトを多用した演劇風の演出も特徴である。これは人殺しに葛藤する兼続の心象風景をイメージしているようで興味深い。

人殺しを嫌がる主人公は、敵兵を殺すのが当然の戦国時代劇において異色である。直近の戦国大河ドラマ「風林火山」(2007年放送)では戦によって村が略奪され、山本勘助の妻・ミツが武田信虎に惨殺されるなど、戦国時代の不条理を直視していた。それに比べると今回の兼続は殺さなければ自分が殺されるという極限状況を無視している。戦国時代劇としてのリアリティに欠けると批判する向きもあるだろう。

しかし、兼続は決して単なる腰抜けではない。「あの者に母がいると思うと、斬れなかった」と敵兵を逃がしてしまう兼続であったが、上杉景勝(北村一輝)を侮辱した景虎の家臣には斬りかかる。人間には絶対に許せないものがある。それは天下国家というような抽象的なものに対してよりも、自分の身近な物事に対する方が多い。

決して私憤は公憤よりも低レベルであることを意味しない。むしろ往々にして私憤は公憤よりも大きな力を発揮する。暴虐な織田信長を討つという大義名分では人殺しをする気になれなくても、敬愛する主君が侮辱されれば友軍兵士だろうと容赦しない。

記者は東急不動産(販売代理:東急リバブル)から不利益事実(隣地建て替えなど)を説明されずに新築マンションを購入した。真相発覚後の東急リバブル及び東急不動産の対応は不誠実極まりないものであった。当然のことながら記者は激しく怒った。その怒りが売買代金返還請求の裁判を進める原動力となった。それ故に兼続の思いにも共感できる。敵兵は斬れなくても味方は斬れる兼続の行動にも納得できる。

「天地人」は戦国時代劇であるが、企画意図には「利」を求める戦国時代において、「愛」を信じた兼続の生き様は、弱者を切り捨て、利益追求に邁進する現代人に鮮烈な印象を与えます」としており、現代社会への問いかけという側面が強い。日本では十五年戦争時に国家のために命を捨てることが当然視されたように、社会が困難に直面すると弱者の犠牲と忍耐によって克服しようとする傾向がある。派遣切りは、その典型である。私憤で味方に斬りかかるが、公憤で敵兵を斬ることができない兼続は、そのような日本社会の愚かしさを風刺しているようで意味深長である。現代人以上に現代人的な理性を有している兼続を応援していきたい。



(記者:林田 力)

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