2009年02月10日(火) 19時19分
Googleストリートビュー規制論への懸念(ツカサネット新聞)
大手ポータルサイトのグーグル(Google)のストリートビュー(Street View)についての議論には懸念すべき傾向がある。ストリートビューはインターネット上で街並みの写真を閲覧できるサービスで、日本では2008年8月5日に公開された。外出先の雰囲気を事前に下調べできるなど非常に便利なサービスである。地図上からマウス操作で当該地点の写真を表示でき、操作性も優れている。しかし、自宅が無断公開されることなどに対し、プライバシー侵害と批判されている。
グーグル日本法人の担当者は2009年2月3日、東京都の情報公開・個人情報保護審議会に出席して、「プライバシーについて詰めが甘かった」などと釈明し、今後は写真を公開する前に該当する自治体に知らせる方針を示した。ストリートビューを批判する立場にとっては、グーグル側がプライバシーの問題を認めた点で一歩前進に見えるが、解決の方向性が誤っている。
プライバシー侵害が問題であるならばプライバシーを侵害される個々人の了承を取らなければならない。自治体の了承は個々人に対するプライバシー侵害の正当化にならない。グーグル担当者によると、海外では写真公開前に官庁や自治体に説明していながら、日本では事前説明をしていなかったとのことだが、むしろ役所のお墨付きを得ればいいという発想は人権意識の低い極めて日本的な発想である。
建築紛争では隣地の建設によって日照や眺望などで甚大な被害が出る場合でも、マンション建設業者は「建築確認を取得しているから」と正当化することが多い。自治体への事前説明を解決策とすると、自治体への了承を得ているとグーグル側に正当化根拠を与えることになりかねない。
Googleストリートビューの評価できる点は無料で公開し、インターネット接続環境があるならば誰でも利用できることである。それ故に地上げ屋による土地漁りや泥棒の下見に使われるかもしれないという嫌悪感がある。しかし、調査するだけの時間と労力があればストリートビューによって分かる情報はストリートビューがなくても入手可能である。悪意がある連中に狙われたならば、ストリートビューで得られる程度の情報がすぐに入手されてしまう。むしろ彼らが入手しそうな情報をストリートビューから確認できることには大きな利点がある。
記者は購入したマンションに不利益事実不告知(隣地建て替えなど)があったため、売買代金返還を求めて売主の某不動産を東京地裁に提訴した。裁判の係属時にはストリートビューは公開されていなかったが、Google Mapで上空からの衛星写真や航空写真を表示できた。その写真を証拠として裁判所に提出することで、隣地建て替えによって日照や眺望などが損なわれることを具体的に立証した。
この経験があるためにストリートビューも地上げ屋や泥棒の武器となる以上に弱者である個々人の武器となる面が大きいと考える。例えば防犯面での不安についてはストリートビューで自宅周辺の写真を確認することで、気付きにくかった問題を確認して事前に対策をとることができる。悪用する人ばかりにメリットがある訳ではない。
ストリートビューが公開された時、その便利さに驚嘆し、新しいサービスにワクワクした。これが廃止されるようなことがあったら大きな損失である。一方でストリートビューによって迷惑を被る人との調和も図らなければならないが、それが役所のお墨付きで実現できないことだけは確かである。
(記者:林田 力)
■関連記事
林田 力記者の書いた他の記事
「IT・科学・環境・医療介護・インターネット」カテゴリー関連記事
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090210-00000012-tsuka-inet