2009年02月10日(火) 19時19分
お笑いタレント中傷とブログ炎上の相違(ツカサネット新聞)
お笑いタレント・スマイリーキクチ氏のブログを事実無根の内容で集中攻撃したとして、警視庁は2008年2月5日までに17歳から45歳までの男女18人を名誉棄損や脅迫の疑いで書類送検する方針を固めた。スマイリーキクチ氏が「足立区女子高生コンクリート詰め殺人事件に関わった」などといった虚偽内容の中傷が書き込まれたためである。
身に覚えのない虚偽の内容によって、執拗に攻撃されるのであるから本人にとってはたまったものではない。
私は購入したマンションに不利益事実不告知(隣地建て替えなど)があったために売買代金の返還を求めて売主の東急不動産を提訴した。それに対し、住宅ローンの返済に窮したために裁判しているなどと事実無根の風評をインターネットで書かれたことがあった。
この体験があるために「私自身の生活・仕事に影響があるのみならず、家族や友人・知人にこれまで以上に不安な思いをさせてしまう」とのスマイリーキクチ氏の不安と怒りは大いに共感できる。
但し、この事件を「ブログ炎上事件」とする報道が散見されることは非常に気になる。これは日本のマスメディアの、インターネットを理解せずに頭から否定したがる傾向を物語っている。
確かに攻撃的なコメントが殺到する点が炎上の特色である。しかし、これまで「炎上」として認識されている事例には、先に炎上に至る原因が存在した。炎上のきっかけとなった代表的な問題発言には以下がある。
・歌手の倖田來未さん:「35歳以上になると羊水が腐ってくる」
・評論家の池内ひろ美さん:トヨタ自動車の期間工に対し、「彼らはトヨタと漢字で書けるのか?」
・花岡信昭・産経新聞元編集委員:アイドルグループ・モーニング娘。に対し、「歌は下手でダンスもまずくエンターテインメントの域には達していない」
・藪本雅子・元日本テレビアナウンサー:「男の子は、それはもう幼稚園の頃から、女の子のパンツが見たくて見たくてしょうがない生き物である」
これらに対し、スマイリーキクチさんの場合は炎上の原因になるような失言や問題行動をしていない。勝手な思い込みによって攻撃されただけである。今回の件を過去の炎上事件と同列に扱うならば、スマイリーキクチさんを貶めることになる。
炎上は個人が情報の発信者となれるインターネット時代ならではの現象である。情報の受け手とされてきた個人が批判の声をあげるようになったことは大きな進歩である。
実際、ビジネス誌の週刊ダイヤモンドは、過去には泣き寝入りしていた消費者がネット上で企業への不満を主張し、炎上させる状況を「お客が企業に対等にモノを言う時代」に突入したと位置付ける(※1)。この記事では炎上の事例として、前述の東急不動産との裁判を契機とした、東急不動産と販売代理の東急リバブルに対する批判の急増をあげている。
また、子どものケータイやネットの利用を論じた書籍では、子どもが主利用者のWebサイトでは炎上が少ないとし、その理由を「炎上するほどにまで相手にぶつかっていくエネルギーがなくなっているせいではないか」と否定的に推測する(※2)。間違ったことや許せないことに対して個々人が批判の声をあげることは決して悪いことではない。
表現の自由を重視する立場からは、今回の異例とも言える一斉摘発が表現活動の萎縮をもたらすのではないかとの懸念が出てくる。
しかし、それ以上に今回の事件をブログ炎上と位置付けて、炎上という現象自体が悪いことであるかのように伝える報道姿勢の方が批判的言論を萎縮させかねない。事実無根の中傷や脅迫と、批判が殺到した結果としての炎上は全く異なるものである。
参考:
※1)「ウェブ炎上、<発言>する消費者の脅威−「モノ言う消費者」に怯える企業」週刊ダイヤモンド2007年11月17日号39頁
※2)加納寛子、加藤良平『ケータイ不安』日本放送出版協会、2008年、44頁
(記者:林田 力)
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