頭の中の引き出しをのぞき込むように考え考え、低い上品な口調で話し始めた。が、だんだん雄弁になり、シックなスーツも構わず、昔撮影で肋骨を折った様子を立ち上がって熱演。インタビューを終えると、73歳という年齢を忘れるほど若々しく見えたから不思議だ。
テレビ朝日系の土曜ワイド劇場「温泉マル秘大作戦」は、経営不振の温泉旅館を立て直す温泉コンサルタント会社の話で、主役の森口瑤子らを率いる社長・城ノ内を演ずる。旅館再建中になぜか殺人事件が起こり、両方を解決していく人気シリーズで、2004年に始まった。
名脇役としてドラマを引き締めるが、「出番の少ない仕事は楽だなと思う反面、もうちょっとかかわりたいという気持ちはあった」。その念願かない、7作目(21日午後9・00)は、めいの婚約者が殺人容疑者となる設定で主役級の扱い。舞台は4歳になる前まで過ごした富山県内にある秘境・大牧温泉(南砺市)だ。
撮影現場では、専門家らしいきっぱりとした部分と、肉親の情を部下に隠そうとする「生身」の部分を慎重に演じ分けた。
城ノ内に部下が「水くさい」と迫る場面がお気に入り。雪が欲しい場面で、野際の帰郷を祝うように雪が降り始め、幻想的な光景になったという。
NHKのアナウンサーなどを経て、1963年にドラマ「赤いダイヤ」(TBS系)でデビューした知性派女優。意外だが、撮影前に台本を読み込んだりはしないという。
きっかけは、50歳代で演じたTBS系ドラマ「ダブル・キッチン」のしゅうとめ役。台本を読んだ際、「こんな嫌みなしゅうとめはいない」と感じたが、いざ現場では、嫁役・山口智子の秀逸な演技に「だんだん本気で腹が立ち」、アドリブで台本に輪をかけた「嫁いびり」をした。その強烈なキャラクターが大人気となった。
「台本を読んで考えてもやろうと思わなかったけれど、その場にその役で立つことができれば、おのずから生まれてくるものかな、と思えました」
セリフは、家では声を出さず字だけを追って覚える。現場とは声が変わるし、相手の役者の出方次第で変わるから。徹底的な現場へのこだわりに、長年の経験が透けて見える。
若さを保つための自己流「スキートレーニング」が日課。ダンベルを持ち、滑降をまねヒザを大きく左右にぶんぶん振る。「汗ばんでくると、飼っている4匹の犬がなめに来ます」。まだ二の腕に無駄肉がつきすぎているのが不満、と笑う。
心が若いから体も若いのか、その逆か。いずれにせよ、古希を過ぎてなお「かわいい」と思わせるところが女優・野際陽子の真骨頂なのだろう。(辻本芳孝)