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2009年02月09日(月) 00時00分

(5)「夢がかなう」工学部PR読売新聞


「夢を語ることが工学では大切」と訴える城戸淳二・山形大教授

 日本の科学者4人がノーベル賞を受賞する快挙の陰で、理科離れが進んでいる。特に、もの作りを支えてきた工学部離れが深刻だ。

 昨年11月、東京都内で開かれた地域大学フォーラム。「工学部の志願者はこの10年で半減、全国で25万人以上減った。少子化と理科離れ、東京一極集中の三重苦の中、自助努力だけでは限界だ」。高知工科大(高知県香美市)の佐久間健人学長は窮状を訴えた。

 九州共立大(北九州市)が昨年から、工学部の学生募集をやめるなど、地方の私立大学の工学部は特に苦しい。

 高知工科大も、2006年度から定員割れが続く。頼みの綱は高い就職率。「就職率が98%を切ったら、学生や親から評価されず、大学がつぶれる」と教職員一丸となって取り組むが、未曽有の経済危機は、ここにも暗い影を落とす。

 人気の低迷は、学力の低下に直結する。同大の開学の理念は「研究を通じての教育」だが、基礎学力の再教育に時間を割かれる。

 数学や物理を無理やり教え込まず、一人一人の進路に合わせて、研究に必要なことを教える。「割り切った本音主義」(篠森敬三教育センター長)で、学生を最先端研究の戦力に育てる。

 佐久間学長は「今回の経済危機でも、ソニーなど日本を代表するメーカーで大幅なリストラが続く。工学部は医学部より人気が高い時代もあったが、今は、理系は忙しいのに報われないという印象が定着してしまった」と憤る。

 公設民営でスタートした同大は新年度から、公立大学法人化する。学費負担が軽減、1月31日と2月1日に行われた一般入試の受験者数は一気に昨年の10倍以上になった。ただ、こうした神風も、工学部を巡る状況が変わらない限り、一時しのぎにしかならない。

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 「研究は楽しい」「金持ちにもなれるよ」

 次世代のディスプレーと期待される有機EL研究の第一人者、山形大工学部(山形県米沢市)の城戸淳二教授は、海外出張などの多忙な時間をぬって、年10回ほど中学・高校へ出向き、科学の面白さを伝える。

 「エリートだけでなく、誰でも科学者になれる。面白いと思って頑張ることが大切」。2も3も交ざった自身の通信簿を見せながら、熱く語りかける。

 城戸教授にあこがれて、全国から学生が集まる。栃木県出身の修士1年の橋本洋平さん(23)は「漠然と首都圏の偏差値の高い大学に行こうと思っていたが、今は、世界と戦っている実感があり、楽しい」と話す。

 城戸教授は昨年5月、有機ELの照明パネルを製造するベンチャー企業を三菱重工やロームなどと設立した。照明器具を製造する会社も近く起業する。

 「20年、30年後のソニーを目指す。技術系は暗い話ばかりだが、自ら夢を語り、夢を実現する過程を見せたい」と意気込む。

 もの作りの魅力を高め、学生の評価をどう得るか。科学立国の明日が問われている。(おわり)

 (杉森純、山田哲朗、吉田典之が担当しました)

http://www.yomiuri.co.jp/science/tomorrow/tr20090209.htm