若田光一飛行士(45)が搭乗する米スペースシャトル「ディスカバリー」の打ち上げ準備が進んでいる。
積み荷は、国際宇宙ステーション(ISS)にとって最後の巨大構造物となる太陽電池パネル「S6トラス」。無事に設置が済めば、ISSはほぼ完成形となり、5月末から常時6人が滞在してフル稼働に入る。(ワシントン 増満浩志)
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ISSは、1998年11月に構造物の打ち上げが始まった。主な目的は無重力の環境を利用した科学実験だが、実験を行うにもISSの維持にも人手がいる。
2000年11月に飛行士の常駐が始まり、3か月後に米国実験棟が設置されたが、3人の滞在員ではその運用で手いっぱい。昨年ようやく設置された日本の実験棟「きぼう」や欧州棟も一部しか使われていない。
6人体制への移行に向け、昨年11月のシャトル飛行では飲料水やトイレ、寝室の整備など「住まい作り」が行われた。続く今回の飛行は、実験棟のフル稼働に向けた総仕上げ。ISSで使える電力は、住宅40〜50軒分の需要に匹敵する約100キロ・ワットに達し、特に科学実験用の電力は15キロ・ワットから30キロ・ワットへと倍増する。
S6トラスを若田さんと一緒にロボットアームで取り付けるジョン・フィリップス飛行士(57)は「電源が完成し、日本や欧州の実験棟にも必要な電力が行き渡る」と期待する。
当初12日の予定だったシャトル打ち上げは、22日以降に延期された。若田さんは今回、シャトルで帰還せずISSに数か月滞在し、カエルの細胞など新たな材料を使った実験にも早速、着手する。日本人飛行士がISSに滞在する機会は今後、1年に6か月ずつの割合で回ってきそうだ。
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ようやくフル稼働するISSだが、その維持に中心的な役割を果たすはずだったシャトルが、03年のコロンビア号事故を受けて、来年に退役の予定となってしまった。このため、日本の無人輸送機「HTV」の重要性が増している。ISSの外部に取り付けてある蓄電池の交換品など、真空の宇宙空間にさらす装置は、ロシアや欧州の輸送機では運べず、HTVが担う。
ディスカバリーの飛行中、HTVがISSへ接近する際に、位置を測るアンテナを取り付ける予定で、優先順位の高い任務に位置づけられている。今年9月に予定されるHTVの初飛行が、非常に重要だからだ。失敗すれば、ISSはシャトル退役後の運用が不安になるだけでなく、6人体制を支える当面の食料まで不足する事態になりかねない。
ISSのフル稼働で、日本の役割と責任の大きさが、一層高まる局面に入る。
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ISSで長丁場の任務に入る滞在員は、往復の際に乗るスペースシャトルでは大きな役割を持たないのが普通だが、若田光一飛行士は今回、打ち上げ翌日にシャトルのロボットアームを操り、船体の点検を行う。点検に使うアームの延長棒は、2003年のコロンビア号事故後、若田さんが開発に携わり、実用化された。「その使い心地を自分で確かめられるのはうれしい」と語る。
若田さんはISSに到着すると、緊急避難船として用意してある露宇宙船ソユーズに、自分用の座席を取り付け、その時点で正式にISS滞在員となる。ソユーズでは、飛行士ごとの体格に合わせた座席を使うことになっているためだ。滞在中はISSの維持管理や科学実験のほか、医学担当として、同僚の飛行士がケガをした場合に救急処置なども行う。
滞在の最後には、別のシャトルで運ばれてくる「きぼう」の船外実験設備の取り付けに携わる。帰還時のシャトル飛行で大役を担うのも、長期滞在員としては異例で、「短距離走の後、マラソンをして、再び短距離走をする感じ。自分にとって新たな挑戦です」と話している。
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【シャトル打ち上げ後の予定】2日目 ロボットアームと延長棒でシャトルの船体を点検3日目 ISSに到着。若田さんがソユーズの座席を前任者の分と交換し、正式な滞在員に5日目 若田さんらがS6トラス設置10日目 宇宙から記者会見11日目 「きぼう」にHTV用のアンテナを設置13日目 シャトルがISSから分離15日目 シャトル帰還5月末 ISSが6人体制に5〜7月の間
「きぼう」船外施設の打ち上げ。若田さん帰還