2009年02月09日(月) 08時53分
ブログでの名誉毀損で国内初の一斉摘発 一歩間違えれば自分も加害者(ITmediaエンタープライズ)
2008年、韓国のトップ女優が、ネットの噂を苦にして自殺した。それ以前にも、歌手や女優が自殺している。これを受けて韓国政府も、規制に向けて動きだしたが、言論の自由を盾にして反発が多く実現していないという。
日本でも、ブログを通じての一斉摘発が行われた。いったい、何が原因なのか。そして今後どうなっていくのかを検証したい。
●ブログ炎上で初の一斉摘発へ
2月5日、お笑い芸人のブログへ誹謗中傷の書き込みをしたとして、警視庁中野署が17〜45歳の男女18人を名誉毀損容疑で書類送検する方針を固めたと報じられた。加えて、脅迫容疑でも29歳の女性が書類送検されており、この件に関する検挙は19人にのぼった。ブログの炎上から閉鎖などといったことは過去にもあったが、これらの書き込みからの一斉摘発は全国で初のケースとなる。報道された当日は、「ブログ・オブ・ザ・イヤー2008」の表彰式が行われており、受賞した上地雄輔氏らも、今回の件に関しては「悲しい」とコメントした。
この報道を受けて、当事者であるタレントのスマイリーキクチ氏は、ブログで「約10年間にわたってインターネット上の掲示板などで匿名者からの誹謗中傷の被害を受けてきた」と告白している。
最初の報道が「ブログ炎上」ということだったことから、ブログが問題の温床のように思った人も多かったかもしれない。しかし、この件に関して言えばブログだけでなく、10年の長きに渡って、インターネットの掲示板などで誹謗中傷されてきたことが、遠因となっているようだ。「たまごが先かニワトリが先か」の話のようだが、書籍などでの噂のたれ流しが、誹謗中傷の根拠ともされてしまたっというのだ。今回は、警察と相談の上に被害届を出し、通信記録から悪質な書き込みを執拗に繰り返していた人物を特定し、立件することになったというわけだ。
経緯はどうあれ、ブログへの書き込みを名誉毀損、そして脅迫と判断して立件されたのは事実だ。このことに関しては、ネット上などでも、言論弾圧に繋がるのではないかなどと危惧の声も上がっている。
しかし今回のケースでは、根も葉もない噂が一人歩きし「匿名で書き込んだつもり」のブログへの誹謗中傷が、名誉毀損、そして脅迫にあたると判断された。捜査当局は「安易な中傷への警告の意味を込めた」という。摘発を受けた人の中には、17歳の女子高生だけでなく、45歳の大学職員という立派な社会人まで含まれている。
誹謗中傷を執拗に繰り返すこと暴力に過ぎない。言論の自由は別ものだ。
懸念があるとすれば、検挙の対象にする基準をどこに置くかといったことだ。今回のケースでは、「人殺し」などといった事実無根の悪質な書き込みを執拗に繰り返していたということが、その基準となったようだ。しかし明確な規準が定められているわけではないので、捜査官や、被害者の主観などによって変わってくるのかもしれない。
●誰もが加害者、被害者になってしまう
今回のケースで一致していたのは、摘発された全員が「犯罪になるとは思わなかった」と話している点だ。仮に、相手が犯罪者であったとしても、匿名の第三者が執拗に誹謗中傷を繰り返すとどうなるのか。それも、事実無根のことであればなおさらだ。
ブログや掲示板などで誹謗中傷を繰り返す人の多くは認識不足のようだ。今回の報道を受けて「これで摘発されるならば自分はどうなるか」などと心配するブログの書き手も見かける。取り締まるほどのことか、と考えていることの裏返しかもしれない。
しかし今回はいわゆる「ブログ炎上」とは性質が異なる。炎上の場合ブログの内容や、執筆者の言動などがキッカケとなって、コメント欄が荒れていく。「祭り」とも言われるものだ。
だが今回のケースは、本人の言動からではなく、いわば都市伝説のように流布された噂に過ぎないものがきっかけだった。人の噂も75日ということで自然と消えてしまうなら問題がなかったかもしれないが、一方で「人の噂は倍になる」ともいう。
今回の場合、小さなことを何者かが勝手に結び付け、さも真実であるかのように流布をした。それが掲示板やブログを通じてネット上に流れていき、それを見た人が鵜呑みにしてさらに伝達していく——。この噂が一部の書籍に掲載されたことも「真実」だと思い込む人を増やしてしまった要因のようだ。インターネット上に流れてしまった情報を消し去ることは難しい。
今回のケースでは結果的に、10年にも渡って誹謗中傷が続いた。真実だと思えば捜査当局に通報するなどすればいい。必要と判断されればきちんと捜査され、検挙されずはずだ。今回の結果を見れば、何が真実だったのかは見えてくるだろう。
携帯電話からのネット接続が可能になってから、ブログなどを利用するユーザーは爆発的に増加した。無責任な言動をすれば、誰もが加害者になる可能性がある。今回のように摘発され、書類送検されることもある。
背景には、ネット周辺での法整備は進んでいないこともある。韓国では冒頭で触れたように、書き込み規制などの法整備も検討されたが、言論の自由を盾にして反発が多く実現していない。日本でも、法規制の論議がされていく可能性はありそうだ。
大切なのは、ネット上の情報を鵜呑みにせず、考えること。顔が見えず、匿名で発信できるネットの向こう側には、心を痛める人間がいることを忘れてはいけない。今後、このような事例が増えてしまうと、中国でWebサイトの一斉摘発が行われたように、日本でも自由が制限されるかもしれない。個人がネットリテラシーを高めていくしかない。
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