2009年02月08日(日) 19時12分
事件の賠償10年支払いなし、賠償の時効停止認められたが…(読売新聞)
覚せい剤を注射され、ショック死した少女の遺族が、2人の男を相手取り、約5500万円の損害賠償の時効が来ないよう求めた訴訟の判決が水戸地裁(都築民枝裁判官)であり、全面的に認められた。
最初の訴訟から10年が経過したが、賠償金は1円も支払われていない。事件の被害者が、損害賠償請求を簡便に申し立てられる損害賠償命令制度も始まったが、被害者救済への壁はまだ高い。
事件は1996年8月に起きた。当時16歳だった茨城県桜川市の女性は、無職(事件当時22歳)と土木作業員の男(同20歳)に車に連れ込まれた。覚せい剤を注射され、死亡。遺体は同県石岡市の加波山山中に遺棄された。強姦(ごうかん)致死、死体遺棄罪などに問われた無職の男には懲役14年、土木作業員には懲役9年の実刑判決が下された。
両親は判決後、娘への慰謝料などを求める損害賠償訴訟を起こし、水戸地裁土浦支部は98年9月、2人に対し計約5500万円の支払いを命じた。しかし、服役中の2人から損害賠償の支払いはなかった。不法行為の損害賠償請求権は、確定判決があっても10年で時効を迎え、請求権そのものが消滅する。遺族は損害賠償の時効が来ないよう求めるため、2度目の訴訟に踏み切った。
「私たちは一生背負っていかなければいけないのに、相手に誠意が見えない」と、女性の父親(59)。女性のことを思い出さない日はなく、仕事場のホワイトボードには、事件の日付が大きく書かれている。今でもうずく胸の内を、家族以外に話せるようになったのは最近だ。1人が出所したのを知り、「謝罪に来れば少しは気が治まったかも」と思う気持ちもあるが、「目の前にしたら、自分はおかしくなってしまう」。裁判も加害者とのやりとりも、すべて弁護士に任せた。
出所した男は新しい生活をスタートさせ、支払える額は月2万円。損害賠償全額を支払い終えるのは2100年過ぎの計算だ。最初の訴訟にかかった弁護士費用の回収にもほど遠い。父親は「結局は誰も助けてくれない。お金が欲しいわけじゃないけど、親としてできることは、これしかない」と無力感をにじませる。
有罪判決が下された被告に対し、損害賠償請求を簡便に申し立てられる損害賠償命令制度は昨年12月、裁判への被害者参加制度と同時に始まった。しかし「犯罪被害者が損害賠償を勝ち取ってもほとんどの加害者は服役中で支払いは難しい」(県警犯罪被害者支援室)という。
いばらき被害者支援センター事務局長の照山美知子さんは「加害者に財産がなかったり、居場所がわからなくなったりするケースもあり、被害者は泣き寝入りするしかない。制度がどう運用されていくのか、見守っていかなければならない」と指摘する。(渡辺加奈)
◆損害賠償命令制度◆
殺人や傷害事件などの被害者や遺族が、刑事裁判の弁論が終わるまでに申し立てると、刑事裁判で有罪判決が出された場合、担当した刑事裁判官が引き続き審理して損害賠償命令を下すことができ、命令は確定判決と同じ効力を持つ。原則として4回以内の審理で済み、刑事裁判の訴訟記録を利用できる上、2000円で申し立てられる。命令に異議がある場合は、民事訴訟へと移行できる。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090208-00000040-yom-soci