2009年02月07日(土) 23時33分
損害賠償命令制度で東京地裁初公判 手続き迅速(産経新聞)
刑事事件の被害者や遺族が、民事裁判を起こさなくても刑事裁判の記録を利用して被告に賠償請求できる「損害賠償命令制度」を被害者が申し立てた傷害事件の初公判が9日、東京地裁(藤井俊郎裁判長)で開かれる。昨年12月の制度導入後、同制度の適用が明らかになったのは広島地裁に続いて2例目、東京地裁では初めてとなる。被害者側は「賠償額確定の手続きが迅速化し、民事裁判を起こすための事務的な負担も軽減される」と期待を寄せている。(小田博士)
被害者側が被告に賠償を請求したい場合、従来は民事裁判を起こすしかなかった。被害者側が、刑事裁判での記録を写したりして一から訴状を作成する必要があり、判決が確定するまで時間もかかった。犯罪被害者支援の意識が高まるなか、負担を軽減しようと昨年12月、被害者が法廷で質問したり求刑に意見したりできる「被害者参加制度」と同時に導入された。
刑事裁判が結審するまでに申し立て、有罪判決が出た場合は、同じ裁判官がその日のうちに審理に入り、原則4回以内の審理で決定する。刑事裁判の証拠書類が引き継がれるため、民事裁判を起こすときのように、被害者側が証拠をそろえる必要もない。
被害者や被告から決定に異議がなければ、確定判決と同じ効力を持つ。異議が出た場合には、民事裁判に移行する。
申立手数料も格安だ。通常の民事裁判では2000万円の賠償請求をした場合、8万円かかるが、この制度を利用すれば請求額にかかわらず一律2000円で収まる。
東京地裁で申し立てがあった傷害事件は、女性が昨年11月、東京都世田谷区内の駅前で、無職の男(43)から顔などを殴られ、約1週間のけがを負ったというもの。被害者代理人の佐藤文彦弁護士によると、男は一部を否認し、賠償の示談が成立しなかったため5日、慰謝料や治療費など計約60万円の支払いを求めて同制度を申し立てた。
9日の初公判では、被害者参加制度に基づき、女性も立ち会う予定。有罪判決が出れば、即座に賠償請求の審理に進むことになる。
広島地裁では、強制わいせつ事件で既に、被害者が被告に慰謝料など約2300万円を請求する申し立てを行った。
被告側は示談を持ちかけているものの不調という。被告の代理人からは「先に示談が成立すると、刑事裁判の判決で量刑が軽くなるおそれがあるからだろう。本来の趣旨と違うのでは」との声が漏れる。
裁判では刑事と民事で判断が割れるケースがある。
千葉県浦安市の元教諭は、少女にわいせつ行為をしたとして起訴されたが、1審、2審ともに無罪となり確定した。だが、千葉地裁は昨年12月、少女の両親らが起こした損害賠償請求訴訟で、元教諭が少女の胸をつかんだなどの一部の犯罪行為を認定。県や市に賠償を命じた。
少女の代理人は「刑事事件は日時や場所の特定が求められるなどハードルが高く、民事とは立証の構造が異なる。裁判官によって判断の差もあるだろう」と話す。
「全国犯罪被害者の会(あすの会)」代表幹事の岡村勲弁護士は「この制度では、同じ裁判官が賠償についても引き続き担当するため、判断がブレない」と指摘。無罪判決が出ても、これまで通り民事裁判を起こせばいいので、岡村弁護士は「デメリットは何もなく、こんな立派な制度はない」と話している。
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