タレントのスマイリーキクチさんのブログに「殺す」などと書き込みをした疑いで、川崎市の女性が書類送検された。この事件はいわゆる「ブログ炎上」とは異なり、ネットに流れる根も葉もない噂を信じ込んだことが原因となっている。(テクニカルライター・三上洋)
一般的な「ブログ炎上」とは違うすでに各メディアで報道されているとおり、タレントの掲示板に殺害予告を書いたとして、川崎市の派遣社員の女が脅迫容疑で書類送検された。この女は、1989年に起きた東京・足立区の女子高生コンクリート詰め殺人に、タレントの男性が関係していると信じ込み、タレントの掲示板に「殺す」などと書き込んだことから書類送検された。
このほかにも警視庁は、誹謗中傷を書いた男女18人を名誉棄損容疑で書類送検する方針だと報道されている。
また被害者のスマイリーキクチさんが、被害に遭ったのは自分だと公表したうえで、「このままでは仕事に影響し、家族も不安にさせるので警察に届けた」とするコメントを発表した。
今回の事件は一般的にいわれている「ブログ炎上」とは、性質が異なっている。「ブログ炎上」では、多くの場合、ブログを書いた人間の不用意な発言や行動がきっかけとなる。ところが今回の事件では、被害者のスマイリーキクチさんが不用意な発言・行動ををしたわけではない。根も葉もない噂を元に、一方的に被害を受けた形だ。
ネットに流れる都市伝説を事実と混同東京・足立区で起きた女子高生コンクリート詰め殺人事件については、ネット上で様々な噂が流れている。犯人たちの実名と称するリスト、犯人のその後の情報(と称するもの)が掲示板やSNSなどで書かれている。猟奇的な事件だけに、読者の興味を引くこともあって、面白半分でコピペ(コピー&ペースト)されたものが今も見受けられる。
このうちの一つが、スマイリーキクチさんに対する中傷で、あたかも殺人事件に関与しているように書かれていた。この噂は非常に古いもので、90年代後半にインターネットの一部掲示板に流れていたもの。コピー&ペーストが繰り返されるうちに、いつのまにかスマイリーキクチさんが殺人事件に関与しているような情報が独り歩きし始めた。
2008年にスマイリーキクチさんがブログと掲示板を開設すると、掲示板に誹謗中傷のコメントを書く人間が現れ、それが「炎上」として騒ぎになったことから、中傷のコメントが増大。スマイリーキクチさんは、ブログを休止し掲示板を閉鎖せざるを得ない状態になり、警察に相談したことから、今回の書類送検に至っている。10年以上も昔の、根も葉もない噂が「炎上」につながったわけだ。
噂というのは恐ろしいもので、掲示板を閉鎖したこと自体も「後ろめたいことがあるから閉鎖したのでは?」などと書く人間が現れ、さらにエスカレートする事態になった。追い討ちをかけるように一部の書籍が、この噂を取り上げたことから、「本に書いてあるから本当かもしれない」と思い込み、ネットでの書き込みが増えたこともあった。
スマイリーキクチさんは自身のブログで、「インターネット上のみならず、所属事務所や仕事先にまで誹謗中傷のメールや電話があり、このままでは私自身の生活・仕事に影響があるのみならず、家族や友人に不安な思いをさせてしまうと考え、警察と相談の上で被害届を出させていただきました。」
とコメントしている。
ネットの情報をうのみにするのは間違いこれについて成城大学文芸学部教授で、『雑談力 おしゃべり・雑談のおそるべき効果 (マイコミ新書)』などの著書がある川上善郎氏は、
「このうわさの発端となった90年代後半は、まだインターネットの力は弱く、荒唐無稽な誹謗中傷を書いても社会問題にはなりませんでした。それが10年以上もネットにくすぶり続けて再燃しています。タレントや有名人の誰もがブログを持つ時代になって、発信者が実際にいる場所ができたことで、直接攻撃するようになってしまいました。誰もがブログや掲示板を持つことが当たり前の時代になったからこそ、生まれた事件だと言えるでしょう。」とコメントしている。
また脅迫・誹謗中傷を書いた犯人の心理的状態については「面白半分の人もいたでしょうが、正義感の強い人もいたかもしれません。ネットのうわさと不正確な状況証拠を真に受けてしまい、『誹謗中傷されても当然』と思い込んで行動していた可能性があります。ネットで集めた情報だけをうのみにするのは間違いで自分で検証することが重要だ、という常識を持つべきです。犯人はインターネットで情報を知るためのリテラシーが足りなかったのではないでしょうか。」と分析している。
http://www.yomiuri.co.jp/net/security/goshinjyutsu/20090206nt15.htm