〈ポケットのなかには/ビスケットがひとつ/ポケットをたたくと/ビスケットはふたつ…〉。たたくたびに、ビスケットがふえていく。まど・みちおさんの詩「ふしぎなポケット」である◆あれば愉(たの)しいと、おとなも思う。ビスケットの代わりに資産がふえていく魔法のポケットを装い、「使っても減らないお金」を売りものにしていたという◆「円天」と称する疑似通貨を宣伝材料にして高配当をうたい、出資者から多額の金をだまし取ったとして「L&G」の会長、波和二(なみかずつぎ)容疑者(75)ら22人が組織的詐欺の疑いで逮捕された。総額は1000億円を超すという◆ふしぎなポケットがこの世にないのは誰もが知っているし、甘言には用心もしていよう。芸能人を“広告塔”に使った派手な宣伝や、疑似通貨という新手の小道具など、だます側は用心を突き崩すあの手この手を繰り出してくるから油断がならない◆逮捕の朝、容疑者の会長は自宅近くの飲食店でビールを飲みつつ、「詐欺だったらこんなに堂々とできるか」と、報道陣を相手に3時間の弁舌をふるった。減らないのはお金ではなく、口のほうらしい。
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/column1/news/20090206-OYT1T00001.htm