衛星放送の本放送が今年20周年になることを記念し、NHKは2月から約9か月間、「手塚治虫2009〜いのち・科学・未来へGO!」を衛星第2で放送する。昨年11月に生誕80年を迎え、今月9日に没後20年を迎える漫画家・手塚治虫の作品の魅力を見つめ直し、現代社会へのメッセージを読み解く。(井上晋治)
企画はまず、1979年以後にNHK総合や教育テレビで放送されたドキュメンタリー番組を集めた計4時間半の特集「手塚治虫のすべて」(8日午後1時)を手始めに、命日の9日から12日まで、連日ゲストを招いて作品を語る「現代への問いかけ」(午後9時)を放送する。ホスト役は手塚の長男でビジュアリストの手塚眞さん。
先月26日夜には、9日放送予定の「ラストに込められたメッセージ」の収録が、漫画家・萩尾望都さんら4人を招き行われた。「ジャングル大帝」の主人公レオが、身を犠牲にして人間を救う場面に、萩尾さんは感極まって声を詰まらせ、作家の高橋源一郎さんは「偉大なる悲劇」と絶賛した。
また、幼少期を撮影した貴重なフィルム映像や、兵庫県宝塚市での学生時代の戦争体験を基にした自伝的漫画「紙の砦(とりで)」を紹介。戦争のむなしさにうちひしがれながら、戦火を生き延びた喜びと漫画家になる決意を叫ぶ主人公や、「僕の漫画は『生きる』ということをひたすら追い求めてきた」と当時を語る手塚本人の過去のインタビュー映像などが流された。
10日以降のプログラムは、「鉄腕アトム」をテーマに建築家・安藤忠雄さんが未来を語る「夢と未来」(10日)、「ブラック・ジャック」をテーマに医師で作家の海堂尊(たける)さんが医療の原点を語る「いのちとヒーロー」(11日)、劇作家・野田秀樹さんが「火の鳥」を語る「生と死を超えて」(12日)と続く。
眞さんは、「社会に命を軽視する傾向が見られる現代こそ、普遍的な力を持つ手塚作品が見直される一番いいタイミング」と話している。
また、4月10日から10月にかけて、初期から遺作までのアニメなど計40作品以上を取り上げる「週刊 手塚治虫」(金曜午後10時、再放送はハイビジョンで月曜午後7時)を放送。初期の代表作「メトロポリス」を映像化した新作や、4月18日から東京・両国の江戸東京博物館で開かれる「手塚治虫展〜未来へのメッセージ〜」(読売新聞社など主催)との連動企画を検討している。
森博明チーフプロデューサーは、「手塚作品は『命』という根源的テーマがあるから人の心に伝わる。メディア変革期の今、テレビに何ができるかを、手塚治虫をきっかけにやってみたい」と話している。