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2009年02月03日(火) 00時00分

春を感じさせる猫 桜新町のみーちゃん読売新聞


和喫茶に良く似合う、和猫のみちゃん(撮影・泉山美代子)

庵主・森下さんにだっこされるみーちゃん(撮影・泉山美代子)

みけねこもなか(生菓子)と抹茶のセット(800円)(撮影・泉山美代子)
本をつくるきっかけをくれた 運命の猫との出会い

 八重桜の桜並木が美しい、世田谷・桜新町。「長谷川町子美術館」や「サザエさん通り」と呼ばれる商店街があり、サザエさんの街として有名だ。都心に近いわりにはのどかで暮らしやすく、私はこの街を気に入って長いあいだ過ごした。お気に入りのカフェはいくつかあるが、なかでも「紫光庵」はいちばんのお気に入りスポット。岡山出身の庵主さん手作りの和菓子とお抹茶がいただける、今話題の「和カフェ」の先がけともいえる店だ。桜新町を離れた今も、定期的にお邪魔している、大好きなお店なのだ。

 私が「紫光庵」に通い始めた頃は、まだみーちゃんはいなかった。それでも、美味しいお抹茶と素敵な庵主さんとのトークを楽しみに、たくさんの方が通っているようだった。私も庵主さんの明るい人柄に魅せられ、仕事の合間や気分転換にと、ちょくちょく顔を出すようになっていた。庵主さんとも、居合わせたお客さんとも話をしたが、話題に猫が登場することは特に無かった。もともとの猫ファンでは無かったようだ。なので私もあえて猫の話はしなかったのだが・・・。

 そんな紫光庵に、庵主さんと私にとっての運命の猫「みーちゃん」がやってきたのは、ある嵐の夜だった。親とはぐれたのか、外にあるベンチの下で泣いていたのだとか。庵主さんは、ずぶ濡れ泥だらけになっていた子猫のみーちゃんを温かいお風呂に入れ、獣医さんに連れていき、ご飯を食べさせた。それからは庵主さんとみーちゃんはずっと一緒だ。

 お互い大好きになったのだ。出会うべくして出会った、運命の一人と一匹なのだろう。ある日、いつものように紫光庵の扉を開けた私は、そりゃもうびっくりした。庵主さんが猫を抱いているではないか!みーちゃんを見て私はもう一度驚いた。ものすごい美猫だったからだ。みーちゃんは三毛の日本猫。といっても、きなこや黒ゴマを連想させるような優しい色合いは珍しい。みーちゃんのまわりだけ、ほんわかと、まるで春がそこにあるかのよう。ほのぼのとした存在感は和カフェに良く似合ったので、「和猫」と呼ぶことにした。

 はじめは怯えていたみーちゃんも、そのうちお客さんと仲良く遊ぶようになった。すくすくと成長するみーちゃんを見逃すものかと、私は紫光庵にさらに足繁く通った。ほかのお客さんもそのようだった。不思議とみーちゃんを嫌う人はいなかった。これは庵主さんの人柄によるところだろう。庵主さんがカウンターの奥から「みーちゃん!」と呼ぶと、みーちゃんは「ニャー!」と答える。

 庵主さんとみーちゃんのあいだにいる私たちは、顔がニヤけっぱなしである。美味しいお抹茶がいただけて、みーちゃんにも会えるなんて、なんて素敵!と思っていたのは私だけではなかった。窓際に佇むみーちゃんを、走るバスの中から発見し、わざわざ降りてやってくる人もいた。噂を聞いて遠方から訪ねてくる人もいた。あっという間にみーちゃんは有名アイドル猫になり、紫光庵はお抹茶と和菓子ファンのほかに猫ファンも集うお店になったのだった。もともと猫大好きな私にはうれしすぎる出来事だった。

 そんなとき、ほかにも猫がいるカフェが存在することを、口コミで知った。庵主さんと私は、情報を集めては、猫に会いにカフェを訪ねるようになったのだった。どのカフェも、個性があり猫の存在が光っていた。もちろん猫がいなくても充分魅力的。ドリンクもフードも美味しい。そんな店で猫に会えるなんてなんて幸せなんだろう。これは皆に教えなくては!

 ということで、私のムックづくりが始まったのであった。こうしてきっかけを作ってくれたみーちゃんは、私にとっても運命の猫だ。桜新町では今日も誰かが、みーちゃんに会いに紫光庵を訪ねているのだろう。そうして出会った誰かの人生を、また素敵に変えてしまうのかも知れない。みーちゃんは、そんな力を持った猫なのだ。

    和喫茶 紫光庵       場所 東京都世田谷区桜新町1-25-25-1       TEL:03-3703-7451

http://www.yomiuri.co.jp/komachi/pet/neko/neko090203.htm