2009年02月01日(日) 12時37分
「先生」の教えと歩む女優道 八千草薫(産経新聞)
□フジテレビ開局50周年記念ドラマ「ありふれた奇跡」フジ木曜午後10時
年齢を重ねても永遠にかわいい女性、と言われ続ける女優さんの代表格ではないだろうか。
昭和52年に主演した山田太一脚本ドラマ「岸辺のアルバム」(TBS)は名作の誉れ高いが、それ以降、山田作品には欠かせない存在となっている。連続ドラマとしては12年ぶりに山田が手掛けるこの作品の出演者に、彼女の名前がないわけがない。仲間由紀恵演じる主人公、加奈の祖母、静江は、行動派で楽天的なおばあちゃんという役どころだ。
「私は言おうと思っても黙ってしまう方ですが、静江はスパスパッと何でも言っちゃう愉快な人。台本には、何気ないようで、でも何度も読んでいるといろいろなことを考えさせられてしまうせりふが数々あります」
孤独や希望に加えて死生観もこのドラマのテーマのひとつだが、78歳の大女優は淡々と語る。
「生命あるものは皆同じだと思うの。植物だって枯れて死んでいくし…。悲しいですが、人間も枯れて死んでいくのはしようがないと思います」
一昨年に50年連れ添った映画監督の夫、谷口千吉さんを亡くした。死期が迫った監督が伊豆の病院に入院中に金婚式を迎えた。彼女は、終生「先生」と呼んだ夫に手書きのカードとクリスタルのカエルの置物をプレゼントしたそうだ。
「退院して家に帰る、でカエルです。カードは封をしたまま棺に納めました。そりゃ寂しいですよ。家に帰っても応えてくれる人がいないんですから。笑うことが少なくなっているかもしれませんね」
女優としては「下手の考え休むに似たり」と夫から教わった。「よく寝て、食べて、吸収し、常にいい素材でないといけない」と基本的なことをいつも言われた。今は夫妻で親しんだ山登りからは遠ざかったが、毎朝1時間の愛犬との散歩は欠かさない。
「女優はさらけ出す仕事なのですが、華やかなのはちょっと苦手。昔の洋画『深く静かに潜航せよ』ではないですが、深く人の心の中に潜んでいける、知らない間に印象に残る、そういう役者になれればと思います」
控えめに話し、少しほおを赤らめた。(松本明子)
■やちぐさ・かおる 昭和6年1月6日、大阪府生まれ。22年に宝塚歌劇団に入団、娘役で人気を博す。26年に映画デビューし、「宮本武蔵」「蝶々夫人」「雪国」「ハチ公物語」など多くの作品に出演。テレビは「阿修羅のごとく」「ちょっとマイウェイ」「拝啓、父上様」、舞台は「細雪」「女系家族」などがある。好きな女優はビビアン・リー。平成9年に紫綬褒章受章。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090201-00000523-san-ent