2009年02月01日(日) 16時07分
仏の主要紙を国が救済、政財界との密着背景(読売新聞)
【パリ=林路郎】フランスのサルコジ大統領は先月、「新成人に対し、1年間無料で新聞を配達する」との主要日刊紙救済策を打ち出した。
「国による新聞社救済」という異例の措置の背景には、新聞社と政財界が密接に結びつく仏特有の土壌がある。一方で、新聞の独立をさらに揺るがすとの懸念も出ている。
◆急場しのぎ◆
フランスでは、通信社の配信記事や娯楽情報に特化した無料紙が部数を伸ばす中で、保守系紙フィガロや有力紙ル・モンドなど主要紙は部数30万〜50万部と低迷。赤字も膨らんでおり、昨年には、フィガロが社員の約15%にあたる70人(うち記者45人)を、ル・モンドは記者・編集者約90人をそれぞれ退職させる事態に発展した。
今回の救済策は、経営悪化に苦しむ新聞社首脳と記者組合が政府に対策作りを求め、まとめられた。今後3年間に総額6億ユーロ(約690億円)が投じられるが、「急場しのぎ」の色彩も濃い。フィガロのフレデリック・キャスグラン発行人は「長期的な売り上げ増に結びつく保証はない」と話す。
◆民主主義の要◆
仏政府は第2次大戦直後から、新聞を「民主主義の要」と位置づけ、戸別宅配を低料金で郵便局に引き受けさせたり、設備近代化を援助してきたりした。仏国立科学研究所のジャンマリ・シャロン研究員(メディア論)は、「国による救済は米英文化圏では理解されないが、極めてフランス的な対応だ」と説明する。
仏主要紙と政財界との結びつきも古く、固い。ル・モンドは戦後、ドゴール将軍(後の大統領)の肝いりで設立された。同紙を発行するラヴィ・ルモンド社の株式の2割近くは、欧州航空宇宙大手EADS社を傘下に置くラガルデール社が保有する。
最古の全国紙フィガロは1958年の第5共和制発足以来、一貫してドゴール主義政党に寄り添い、今もサルコジ政権に近い。経営は、与党・民衆運動連合(UMP)上院議員で、軍需大手ダッソー社の総帥であるセルジュ・ダッソー氏が握る。左派系紙リベラシオンもユダヤ系財閥ロスチャイルド家の手にある。
◆改善必要◆
主要新聞社を保有する企業や資産家の多くは「編集には関与しない」(ダッソー氏)と強調する。だが、カトリック系紙ラ・クロワの毎年の世論調査で、「新聞は信用できない」と答える人が50%前後に達しており、逆に「新聞報道を信頼できる」とする回答が80%以上(本紙世論調査)を占める日本とは、対照的な構図も浮き彫りになっている。
今回の救済策に対し、無料紙「20分」のフレデリック・フィユー元編集長は「補助金行政は言論の独立と相いれない。政府広告の増加などをジャーナリズムは許容すべきでない」と批判する。
新聞の中身の改革を求める声も根強い。複数の子供向け新聞を発行する独立新聞社プレイバックの社長で、今回の救済策を打ち出した諮問委員会の分科会座長を務めたフランソワ・デュフール氏は、「主要紙は、新聞の役目である事実の報道と調査報道を怠り、読者の信頼を失った」と指摘。主要紙に体質転換を呼びかけている。主要日刊紙救済策 18歳に達した男女に1年間、好みの新聞1紙を無料で届け、購読料を新聞社が、配達料を政府がそれぞれ負担する措置。〈1〉新聞社電子メディア部門への財政支援〈2〉郵便局による戸別配達料値上げの1年間先送り〈3〉新聞への政府広告の増加−−なども盛り込まれた。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090201-00000028-yom-int