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2009年01月31日(土) 00時00分

携帯持ち込み禁止 現場は模索読売新聞

 文部科学省が30日、全国の小中学校に通知した「ケータイ持ち込み禁止令」。携帯電話を巡るトラブルが後を絶たない中、同省がようやく重い腰を上げた形だが、全国調査では9割以上の小中学校で既に原則禁止を掲げており、「現場が大きく変わるものではない」との声も上がる。

 ケータイのトラブルから子供をどう守るのか、現場の模索は続く。(社会部 山下昌一、渡辺光彦、和歌山支局 上村真也)


携帯電話所持0%を目指す足利市立北中学校。玄関には現在の所持率が記された張り紙も=山下昌一撮影
既に小中9割超で禁止も、教室にはケータイの音

 「今さら号令だけかけられても……。7年前から禁止を打ち出している我々だって、この有り様ですから」

 和歌山市内の市立中学の教諭(49)は苦笑いする。

 和歌山県では2002年2月、全国に先駆けて県教育委員会としてケータイ持ち込み原則禁止の方針を打ち出した。だが、この教諭の学校では今も約3分の1の生徒がケータイを持ち込み、授業中に「ブーン、ブーン」とマナーモードの音が響くのも日常茶飯事。教諭は「音が鳴っても気づかないふりをしている」という。

 「最近は権利意識が強いので、持ち物検査もできないし、たとえ見つけても、保護者の苦情が怖いから、取り上げることもできない」。別の教諭も苦しい指導の実情を明かす。

 結局、県内の教育関係者などで作る教育協議会は昨年6月、禁止の方針は維持するとしながらも、「許可制を導入するなど、地域や子供たちの現状を考えた取り組みが必要」との提言をまとめた。協議会の会長を務めた佐藤周・和歌山大准教授は「完全禁止は不可能」と指摘し、こう続ける。「問題の本質は、むしろ家庭での使い方。『学校に持ち込むな』で議論が止まってしまっては、学校の責任放棄で終わりかねない」

 家庭や地域を巻き込もうという動きも出ている。

 栃木県足利市立北中学校の玄関口。「34・2%」と書き込まれた紙が張り出されている。昨年11月時点での全校生徒のケータイ所持率だ。同校が「携帯所持0%運動」を始めたのは、ケータイを巡る事件が各地で相次いだ05年。保護者からは異論も出たが、PTAの会合などでケータイの危険性を繰り返し説き、学区内の小学校とも連携を取りながら、「子供に携帯は必要ない」と訴え続けた。その結果、05年には55・5%あった所持率は徐々に減少していったという。

 東京都足立区立栗島中学校では昨春、「プロフ(自己紹介サイト)で悪口を書かれた」といったトラブルが立て続けに起きた。生徒に正しい使い方を教えるなど対応に乗り出そうとしたが、「ケータイのことは分からない」というベテラン陣も多く、夏休み中に全教諭を対象にした講習会を開いた。生活指導主任の柳田章教諭(51)は、「生徒に教える前に、まず教員が詳しくないと」と話す。

 NTTドコモが06年末に全国の教員を対象に行った調査では、小学教諭の73%、中学教諭の72%がケータイについての授業が「必要」あるいは「必要になるかもしれない」と回答した。しかし、実際に授業を行っていると答えた小学教諭は3%、中学教諭は16%にとどまっている。背景には教える側の「力量不足」もあるとみられ、現場からは「ケータイ教育を求める世論が急激に高まっているが、教材や指導法、教員の研修は追いつかない」との声も上がっている。


子供と携帯電話の規制をめぐる主な流れ
文科省通知、現状の「後追い」

 この問題で、文部科学省の対応は終始後手に回った。学校への持ち込み禁止論議のきっかけは、政府の教育再生懇談会が昨年5月に出した「小中学生には持たせるべきではない」とする報告だった。だが、文科省はこの時、学校ごとにケータイの取り扱い方針を明確にするよう指示しただけで、対応は各学校に委ねた。

 世論に押される形で、今回の通知を出したが、現場では、すでに9割以上の小中学校が持ち込みを原則禁止しており、現状の「後追い」に終わっている。

 一方、今回の通知の実効性は不透明で、今後、どう具体策を描けるかが課題だ。

 自民党内には規制強化を目指す強硬論もあり、高校教諭出身の義家弘介参院議員は、「持ってきたら即没収するなど、(対応の)明確な統一基準を作るべきだ」と、厳しい姿勢を示している。

 ただ、携帯電話各社は持ち込み禁止について現在、表立って反対の声は上げていないが、「子供から取り上げるのは危険な議論。時代遅れの人が勝手にルールを決めてはいけない」(孫正義・ソフトバンク社長)というのが本音のようだ。

 自民党の総務副大臣経験者も「本来は国が言うべき話ではなく、規制強化につながらないか懸念している」と語っており、通信業界が巻き返しに動く可能性もある。(政治部 小坂一悟)

文科省、実態調査を指示

 塩谷文科相は30日、「9割以上の小中学校が持ち込みを禁じているが、本当に持ってきていないか学校に聞くべきだ」と述べ、現場の取り組みの実効性について改めて調査すると共に、家庭など学校外での使用状況についても調べる考えを明らかにした。

継続的な支援必要

 下田博次・群馬大特任教授(情報メディア論)「文科省は長年、この問題を放置しており、今回の措置も遅きに失した観がある。地方自治体の方が文科省よりも危機感を持って取り組んでおり、現場の危機意識に押されてようやく文科省が動き出したのだろう。ただ、学校現場で徹底するのは時間がかかる。文科省は現場の先生に任せきりにするのではなく、継続的に支援していく必要がある」

適切な使い方の教育を

 安川雅史・全国webカウンセリング協議会理事長「携帯電話が勉強に不要なのは明らかで、文科省の方針は間違っていない。ただ、学校に持ち込ませないだけでは、『ネットいじめ』や有害サイトへの接続はなくならない。トラブルは、学校外で起きている。適切な使い方を、学校、家庭、地域社会が連携して指導することが今後の課題だ。他人を傷つけるようなことを書き込まないなど、大人の責任として教えなければならない」

http://www.yomiuri.co.jp/net/feature/20090202nt0b.htm