東海道新幹線の高架、「N700系」が列をなす基地、敷き詰められたようにコンテナが並ぶ貨物ターミナル、川沿いの桜……。
「0系」を展示する摂津市安威川南町の「新幹線公園」(1800平方メートル)は、甲子園9個分の広大な新幹線鳥飼基地(大阪車両所)北側に、ひっそりたたずむ。全国的な知名度こそないが、実は府外からもファンが訪れる穴場だ。0系が昨年で44年の歴史に終止符を打ち、“遺産”として新たな脚光が集まる中、地元では「街の顔として全国的に知られる一大名所になれば」と期待を寄せる。0系が残る街を歩いた。(山本慶史)
摂津市役所から南の安威川を越え、ターミナル北側の堤防を北東へ約400メートル。144本の桜並木、コンテナを次々と運ぶ車両を横目に歩いて行くと、おなじみの〈団子っ鼻〉が目に入った。先頭車両だけだが、存在感がある。車体の細かなサビや窓枠のほこりの塊が時代を感じさせる。運転室はレバー式ハンドルと指針メーター、運転席といった意外にも簡素な造りだ。
1969年(昭和44年)製造の16両編成の先頭車両。84年10月まで、東京から新大阪、博多間約532万キロ、地球133周分に相当する距離を走行した。元々、市が83年に国鉄から借り受けて廃車になったEF15型電気機関車を展示した公園。地元の子どもらの「新幹線も展示してほしい」との要望などで、市が翌年、0系の引退車両と敷地を借り受け、新幹線公園が誕生した。
だが、公園は安威川の堤防上にあるため、車道や駐車場がなく、桜や紅葉の時期以外は閑散。基地やターミナルのフェンス沿いは、週末などには和歌山や兵庫などからも親子連れが訪れ、フェンス越しに眺める姿が見られる。しかし、普段は人気がなく雑草が生い茂り、歩道には廃タイヤなどのごみが散乱していた。
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「きれいで安全な中で、新幹線を楽しんでほしい」
5年前、そんな思いから公園周辺の美化に取り組んだのが、地元グループ「新線組」。市のまちづくり講座を受講した沖野豊美さん(57)と山城秀雄さん(68)、現在の隊長・長尾千里さん(59)ら10人が「公園や基地をまちづくりの核に」と結成した。手始めに周辺歩道の清掃活動を月1回行い、空き缶やタイヤなどの投棄ごみを拾い集めた。ターミナルを管理するJR貨物には、歩道沿いの草木の伐採と、新たな桜の植樹を要望して実現。「新幹線公園」と記した案内看板も掲げるなどした結果、雰囲気は一変した。
地道な活動を続けながら「新幹線の街」をアピールしたが、訪れる人は期待以上に増えない。思案していた昨年、引退を迎えた0系が再び脚光を浴びた。寂しさもあったが、沖野さんらメンバーはチャンスと受け止めた。「新旧の新幹線がそろい、川や桜並木、貨物ターミナルまで楽しめる場所は珍しい。0系は一時代の証人として居続ける。みんなが様々な思い出に浸れる憩いの場になってほしい」
今後は、公園で子供たちの交流イベントを開き、近くを走る大阪モノレールに、車窓から基地周辺の風景を楽しめるよう車内アナウンスや減速運転の要請を検討するという。
0系の車内公開は毎月第2、4日曜の午前10時〜正午と、午後2時〜同4時。メンバーも募集中で、問い合わせは同市まちづくり支援課(06・6383・1111)へ。
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20090128-945707/news/20090130-OYT1T00504.htm