雇用情勢がさらに厳しさを増してきた。厚生労働省が30日に発表した調査によると、3月までに職を失う非正社員は12万4800人。「雇い止め」に歯止めがかからない一方で、再就職にこぎ着けたのは、わずか1割に過ぎない。失業者の間に無力感が広がりかねない事態に、就労を支援する各地のハローワークの担当者らは気をもんでいる。
「ついに12万人ですか。非正社員を使い捨てる企業には腹が立つけれど、この不況では仕方がないのかな」。茨城県内の大手電機メーカーの工場で昨年10月に解雇通告を受けた元派遣社員の男性(33)は、ため息をついた。
現在はJR新宿駅周辺で寝泊まりしながら、交通量調査など日雇いのアルバイトをしてしのいでいる。その仕事さえ、最近は競争が激しく、あぶれる日も多い。「製造業で正社員としてキャリアを積めたらいいのですが、この不況では無理」と半ばあきらめている。再就職への足場は築けぬままだ。
管内に製造業の企業が多いハローワーク上田(長野県上田市)では、30日午前8時半の業務開始から10分もたたないうちに求人情報を探すためのパソコン27台がほぼ満席に。昨年末まで製造業の派遣社員だった同県東御市の男性(35)は「製造業で仕事を探すのがどんどん厳しくなっている。国は給付金を配るより、雇用対策にもっと力を入れて」と訴えた。
自動車メーカー「マツダ」のおひざもとの広島県。本社工場(広島市南区など)で働いていた同県府中町の元派遣社員の男性(42)は「ハローワークで見つけた求人に応募しても、面接にさえたどりつけない」と嘆いた。
各地のハローワークでは、失業者の再就職が思うように進まぬ現状に、危機感を募らせる。ハローワーク池袋(東京都豊島区)では、「不況でも飲食業や警備、スーパーなど求人は多い。経験のない仕事でも、思い切って挑戦して」と呼びかける。広島労働局は同日午後、元派遣社員や就職が決まらない学生を対象に、緊急の合同就職説明会を開く。ハローワーク広島東の白浜昇所長(56)は「求人がある介護職などに目を向けてもらえるよう努力したい」と話した。
増える非正社員 安全網拡充急務失職する非正社員らが12万人を超えた。厚生労働省は、企業に支給する雇用調整助成金の対象を拡大したり、財界に雇用確保を要請したりと、対策に追われている。しかし、今回の調査結果はさらなる施策が必要なことを示している。
不安定な立場の非正社員は、正社員以上にセーフティーネット(安全網)が求められる。しかし、雇用保険に加入していない人が相当数に上り、職と家を同時に失った派遣労働者の中には、失業給付がなく、そのまま路頭に迷う人もいる。
さらに、関係者が心配するのは「2009年問題」の影響だ。製造業派遣の期間制限が07年3月から3年に延長されたため、これを見越して06年3月から派遣労働者を受け入れる企業が急増した。これらの労働者が契約満了で「雇い止め」になるケースが相次ぐのではないかと言われている。
国や企業、労働組合は、全労働者の3分の1を占めるまでに増えた非正社員らの権利擁護に本気で取り組まなければならない。(本田克樹)