2009年01月29日(木) 02時36分
<触法障害者>更正後押し 受け入れ施設に報酬 厚労省方針(毎日新聞)
知的障害者など障害を持つ受刑者に出所後の生活拠点を提供するため、厚生労働省は4月から、出所者を受け入れた施設に報酬を加算する方針を固めた。生活支援を得られないまま再犯に走る「累犯障害者」の発生を防ぐため、福祉施設側の出所者受け入れへの負担感を費用面で軽減する。罪を犯した触法障害者の更生に向け、法務、厚労両省が連携して司法から福祉につなぐ初の本格的な取り組みとなる。
障害者自立支援法に基づき、グループホームやケアホーム、障害者支援施設などは、受け入れた人数や障害の程度によって報酬が国や自治体から支払われる。厚労省は報酬体系の改定で4月から「保護観察所連携加算」(仮称)を新設。触法障害者を受け入れた施設に、人数に応じて日額で報酬を上乗せする。このほか、都道府県が国からの補助金を積み立てている基金からも一定額が助成される。加算の額は3月までに決める。
引き受け手のない受刑者は、全国101カ所の更生保護施設が出所後3カ月をめどに受け入れている。就職希望者はその間に職を探すが、高齢者や障害者の場合、仕事も住まいも見つからないケースが多い。福祉施設側も受け入れに難色を示す傾向が強いという。
障害を抱えた出所者の社会復帰を巡っては、厚労省が09年度、各都道府県に「支援センター」を設置することが決まっている。センターは刑務所や保護観察所と連携し、出所後の孤立を防ぐため、受刑者の服役段階から引受先を探したり、福祉サービスを受ける手助けをする。支援策が整うことで、受け皿の確保が今後の大きな課題となっていた。
法務省によると、刑務所を出た後に生活苦に陥った知的障害者が、万引きなどを繰り返すケースが目立つという。07年に刑務所に入った3万450人のうち、障害があるとされる知能指数70未満は22%の6720人。また06年の調査では、引き受け手のない満期釈放者約7200人のうち、高齢・障害のため自立困難な人は約1000人に上った。
さらに、服役中の知的障害者410人を対象にした06年の調査でも、約7割が再犯者で、動機は生活苦が最多。公的な支援が受けやすくなる療育手帳を持っているのはわずか26人だった。【石川淳一】
◇再犯防止に期待、課題も
罪を犯した知的障害者らの再犯防止に向け、司法と福祉の谷間を埋める取り組みがようやく動き始めた。刑務所などを出所した障害者を受け入れた福祉施設に対する報酬加算は、厚生労働省が「更生」を意識した初の制度導入となる。福祉の現場からは期待の声が上がっているが、課題も残されている。【坂本高志、石川淳一】
「福祉側の『サポート力』をアップさせるきっかけになるのではないか」。九州の刑務所などから出所した障害者について、先駆的な支援を行っていることで知られる長崎県の社会福祉法人「南高愛隣会」の松友了(りょう)・東京事業本部長は歓迎する。
同会によると、再犯を重ねる障害者は出所から間もない時期に自立に行き詰まり、福祉の網にかからないまま刑務所にUターンするケースが少なくない。「出所直後に少しの支えがあればいいが、施設側の心理的負担が大きい。これまでは『理念』で細々と受け入れるしかなかった」
同会の田島良昭理事長が主任研究員となった厚労省研究班は06年から約3年、こうした障害者の支援の在り方を探った。その結果、更生(刑務所・保護観察所)側と、福祉側を橋渡しする支援センターを各都道府県に設置する方針が打ち出されたが、肝心の現場の受け入れ施設に対する財政支援が残されていた。
一方で課題もある。松友氏は「利益を目的に触法障害者を抱えるようでは、施設が第二の刑務所になりかねない。障害者の地域や社会への復帰を応援するための取り組みであるべきだ」と語る。
日本更生保護協会の清水義悳(よしのり)常務理事は「1人で生きていく力がない障害者にとって刑務所が居場所になってしまっている」と現状を指摘したうえで「彼らを孤立化させないため、社会が支える必要がある。触法障害者も一般の障害者と同じ福祉の支援を与えられるようにすべきだ」と施設側の意識改革を求めた。
厚労省社会・援護局は「再犯防止に向けた福祉の力が試されている。都道府県の理解を得て受け皿作りを進めたい」と話している。
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