テレビ画面の右上に「アナログ」というロゴが表示されるようになったのにお気づきだろうか。NHKは2008年7月から表示を開始し、民放も一部時間帯に限って表示している。これは地上デジタル放送(地デジ)への完全移行に向けた広報活動の一つだ。11年7月に現在のアナログ放送が終了して地デジに切り替わる予定であり、それまでに地デジを見るための環境を整えておかないと、テレビを見られなくなってしまう。
だが、総務省の調査によると、08年9月時点でも地デジ対応機器の世帯普及率は約47%にとどまり、半分以上の家庭が地デジを見られる環境にない。しかも、地デジ対応機器を持っていても地デジを見ることができない世帯が9・2%に上るというのだ。
地デジを見るにはテレビを買い替えるだけでなく、アンテナも対応させる必要がある。地デジはUHF(13〜52ch)を使うのだが、都市部のアナログ放送はVHF(1〜12ch)を使うことが多く、UHFアンテナを設置しなければ地デジを受信できない。
また、UHFアンテナを既に設置していても、デジタル放送の送信所にアンテナを向けておかなければならない。例えば、名古屋のアナログ放送(テレビ愛知や中京テレビ)は東山タワーから送信されていたが、地デジは瀬戸デジタルタワーから送信されている。また、地域によってはNHKと民放の送信所が分かれていて、複数のアンテナを立てなければすべてのチャンネルは見られない。
ほかにも集合住宅のアンテナや、加入しているケーブルテレビが地デジに対応していない場合もある。こうしたケースだと自分ではどうすることもできず、対応を待つしかない。
アンテナの再調整も必要に?今後混乱が起きそうなのは首都圏である。08年7月に東京タワーに代わる新タワーとして「東京スカイツリー」の建設が始まった。完成後に地デジの送信を行う計画だが、開業は12年春にずれ込む予定だ。11年7月の地デジ完全移行に合わせてアンテナを立てても、1年以内にアンテナの調整が必要になる可能性が高い。もちろん調整費用は各家庭の負担だ。
また、地デジ移行に関連した詐欺まがいの商法が増加することも懸念される。実際に、「今のままではテレビが見られなくなる」と高額な機器を購入させるトラブルも起きているし、一部業者は地デジを見るには光ファイバーサービスへの加入が必須であるかのような文句で勧誘している。
先に述べたように、対応テレビとアンテナがあれば地デジは見られる。アンテナの方向調整だけなら1万円、新設でも2万〜3万円が相場である。テレビを買い替える余裕がないときは、現在のテレビに地デジチューナー(安いものなら1万円前後)を追加すれば地デジを見られる。地デジを見るためだけに多額の費用が発生することはあり得ない。地デジの受信方法について不明な点があるときは総務省の相談窓口(http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/whatsnew/digital-broad/)に問い合わせるといいだろう(電話番号0570—07—0101)。(テクニカルライター・佐々木康之/2008年12月24日発売「YOMIURI PC」2009年2月号から)