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2009年01月28日(水) 00時00分

更生教育で反省の念読売新聞

 千代田区にあるビルの一室で、男性が丸いテーブルを前に話し始めた。「言い争いをして、また、妻をどなってしまった」

 別の男性たちから「どうして怒ったの」「女性の話をちゃんと聞いてあげていないんじゃない」といった声が上がる。ここは、DV(ドメスティック・バイオレンス)の加害男性が、自分を変えるための更生プログラムを実践している民間団体「アウェア」(千代田区)。

 男性会社員(43)は妻への暴力が原因で離婚した後、どうして自分がDVを繰り返してしまうのか知りたくて、インターネットで知ったアウェアの門をたたいた。

 男性は、交際していた頃から暴力をふるい、婚約破棄を告げられた時は「結婚してくれなきゃ、家に火をつける」と脅して結婚にこぎつけた。反論されると平手でこめかみをたたき、つばを吐きかけ、妊娠中にも暴力を振るった。子どもをベランダから落とすふりをしたことも。

 アウェアに参加するうち、家庭の中で自分は「殿様」、妻や子どもは「家来」と考えていたことに気づいた。当時は、「どこの家でも同じはず」と信じて疑わなかったが、プログラムに参加するうちに、「最低なことをしてきた」とようやく思うようになった。

 2002年からプログラムを実施している山口のり子代表(58)は、大学卒業後に地方のテレビ局に就職したが、20歳代後半の女性に寿退社を勧めるといった女性差別の現状を目の当たりにして、3年で仕事を辞めた。独学で女性史などを学び、女性問題を考えるグループに参加するようになった。

 夫の転勤に伴い、1990年から約10年間暮らしたシンガポールでは、DV被害者の電話相談に応じていた。

 だが、相談は増えるばかり。「100人の被害者がいれば、100人の加害者がいる」と、女性を支えるだけでは、問題解決にならないと考えるようになった。アメリカでDV加害者の更生プログラムを学び、帰国後、アウェアを結成した。会合は1回2時間、最低52回の参加を呼びかけている。

 内閣府によると、アメリカでは、裁判所がDV加害者に更生プログラムの受講を命じる州があるという。しかし日本では、プログラム参加は義務づけられていない。内閣府は「加害者の更生に取り組む必要がある」というが、「現在は調査研究の段階」としている。

 山口代表は「加害者の間違った考えは、本を読んだくらいでは変わらない。DVが犯罪であることを理解させるためにも、プログラムへの参加に法的強制力を持たせることが必要」と指摘している。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyotama/feature/hachioji1232983186089_02/news/20090128-OYT8T00065.htm