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2009年01月26日(月) 16時56分

【神隠し公判】被告の反省の念、凶悪な犯罪性向を否定する理由にならない 検察側論告(5)産経新聞

 検察官が法廷で読み上げた、星島貴徳に対する住居侵入、わいせつ略取、殺人、死体損壊、死体遺棄事件の論告の要旨は次の通り。


■徹底した隠蔽工作


 星島被告は、東城さんを918号室(星島被告の自室)まで連れ去った後、東城さんの額から出血の痕跡を消そうと考えました。そのため、916号室(東城さんの自室)に戻り、落ちていた血をきれいにふき取ったほか、自分の指紋を消すため、台所下の物入れの扉などをふくなどしました。

 星島被告は、東城さんの衣服や所持品も、細かく刻んで水洗トイレから下水道管に流すなどしてすべて廃棄しました。

 東城さんの遺体をすべて捨て終わると、東城さんの血や肉片などが室内に残らないように、床に敷いていたコルクマットを1枚1枚洗い、業務用の強力な洗浄剤を入手して配水管内を洗うなど918号室を徹底的に掃除しました。

 星島被告は、東城さんの存在と同様に、自己の生活と体面を脅かす証拠をすべて消し去ろうとしたのです。

 星島被告は事件当日の(昨年)4月18日午後10時40分ごろ、916号室前の共用通路に警察官が3人立っているのを見たとき、警察官に対して、「不審な物音には一切、気付かなかった」とうそをつきました。

 星島被告は同月19日午前2時ごろ、警察官が918号室を訪ねてきたとき、手足に付いた血をシャワーの湯で洗い流した上、玄関ドアを開け、入浴中であったかのように装って警察官に対し、「何も聞こえなかったですね。もう眠いんで、寝ていいですか」などとうそを言いました。

 星島被告は同月19日正午ごろとその日の夕方、また、翌日の夕方にも、訪ねてきた警察官を自ら進んで918号室に入れ、警察官に怪しまれないように平静を装って対応し、捜査に協力するかのように偽って、まるで東城さん失踪とは無関係であるかのような振る舞いをしました。

 星島被告は4月18日から5月1日までの間、夜を徹して東城さんの遺体を類を見ないほど細かく徹底的に損壊し、トイレから下水道管に流すなどして着実に罪証隠滅を図りました。

 その一方で、星島被告は、日中は平然と勤め先に出勤し、マンションで事件とは無関係の住民のふりをして周囲の目を欺いてきました。

 4月19日に外出したさい、マンションの周囲に集まっていたマスコミ関係者に対し、笑みを浮かべてインタビューに応じました。

 同月20日ごろ、エレベーター内で、東城さんを心配して不安でいっぱいだった父に偶然会ったときも、父に平然と話しかけて事件との無関係を装いました。

 5月16日ごろ、勤め先の同僚と酒を飲んだときには、事件が「被害者の自作自演ではないか」と平然とうそぶいて同僚たちを欺きました。

 当初、星島被告は、捜査の対象とはされていませんでした。これは、星島被告が警察官や周囲を欺くために徹底して平然と振る舞った結果にほかなりません。ここにも、星島被告の冷酷さと根深い犯罪性向が現れています。


■徹頭徹尾、人を人とも思わぬ非人間的な行為


 今回の事件は、星島被告の「人を人とも思わぬ」冷酷な人間性が露顕した事件です。星島被告は、被害者に襲いかかってからその存在を消し去るまで、決して、場当たり的に行動していたのではありません。常に性欲の充足、あるいは自己の生活と体面を守るという目的に照らし、その時点で何が最も有効なのか、何が最も危険なのかを冷静に計算し、それに従って自らの行動を制御し、今回の事件を実現したのです。ここに、従前の日常生活では決して表に現さず、法廷でも見せることがなかった、星島被告の真の人間性が現れています。

 星島被告は、かねてからの強姦願望を実現し、若い女性を「性奴隷」にしようとしました。暴力で被害者をねじ伏せ、邪魔になれば躊躇(ちゅうちょ)なく殺害しました。遺体をみじんに至るまで損壊し、平然と事件との無関係を装いながら、徹底した罪証隠滅工作に及びました。

 星島被告は、徹頭徹尾、人を人とも思わぬ非人間的な行為を貫いたのです。一方で、東城さんの人格、尊厳、そして生命までも踏みにじりながら、他方で保身のための足場を刻んでいく星島被告の冷たい内面には戦慄(せんりつ)を覚えます。

 星島被告のこうした卑劣な性格の形成に、その生い立ちが影響しているでしょうか。

 星島被告は1歳11カ月のとき、下半身に大やけどを負いました。星島被告はそれを気に病み、いじめられることを嫌がるがあまり、人付き合いを避けてきたことは同情に値します。しかし、仕事が順調であったことから自分を特別視し、他人を見下し、女性を自分の性欲を充足する対象としてしか見ず、その人格を無視し、その痛みや苦しみなど歯牙にもかけない自己中心的な性格をはぐくんだことは、星島被告がやけどの痕にコンプレックスを感じていたこととは全く無関係です。

 星島被告に前科、前歴がなく、反省の言葉を口にしていることから、星島被告の犯罪性向は進んでいないとの結論が導けるでしょうか

 確かに前科、前歴があることは、その者に犯罪性向があることを示す要素の一つです。しかし、すべてではありません。それまで露見しなかった残忍で冷酷な人間性、顕著な犯罪性向が、一つの事件で一気に露見することもあり得ます。

 星島被告は、罪を認めています。しかし、自首したわけではありません。星島被告は、自ら供述するように、5月25日に警察に逮捕されるまで、遺族のことを考えたことも、被害者のことを考えたこともなく、警察の捜査を振り切って、これまで通りの生活を続けることだけを考えており、自首しようと考えたことは一度もなかったのです。

 そして、星島被告は、警察の調べに対し、当初から自発的に罪を認めていたわけでもありません。担当の警察官から、918号室から血液反応が出たという厳然たる証拠を突きつけられ、もう逃げ切れないと観念して罪を認めたにすぎないのです。

 星島被告は、法廷で、「上京して数年すると、両親をいつかは殺してやろうと思うようになった。殺さないと気が済まなかった。今まで一度も謝ってくれなかった。私の足をかばってくれなかった。もっと早くに何か一言あったらと、そんな恨めしい気持ちでいる」「もし、やけどの痕がなければ、人を殺したりはしていない」と供述しました。

 星島被告が幼少期にやけどを負ったことと、星島被告が人を人とも思わぬ身勝手な人間になったこととは、明らかに関係がありません。

 星島被告はこれだけの事件を起こして、なお、自分の都合が悪いことをすべて他人に押しつけようとしています。星島被告は、口先の言葉とは裏腹に、何の反省もしていないのです。

 また、星島被告は法廷で、「世の中のすべての人間が、自分のやけどのことをばかにすると思っていた」「やけどの痕のことを気持ち悪いといわれることが絶対に嫌だった。もし、そんなことを言われたら、殺してしまうかもしれない」と供述しました。

 やけどの痕をからかわれたくないという、ただそれだけの理由で、脆弱(ぜいじゃく)な自己を守るために人殺しを辞さないという星島被告の性格は、著しく危険であるというほかないと考えます。

 総じて、星島被告に前科、前歴がなく、罪を認めていること、今さら口先で空疎な反省の念を示していることは、星島被告に根深い凶悪な犯罪性向があることを否定する理由にはなりません。

 今回の事件で露顕した根深く、顕著な凶悪犯罪性向をみれば、これを矯正することは到底不可能であると結論付けざるを得ません。 =検察側論告(6)に続く

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