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2009年01月26日(月) 16時53分

【神隠し公判】根深い凶悪な犯罪性向…「矯正は不可能」 検察側論告(4)産経新聞

 検察官が法廷で読み上げた、星島貴徳に対する住居侵入、わいせつ略取、殺人、死体損壊、死体遺棄事件の論告の要旨は次の通り。


 ■厳しい遺族の処罰感情


 星島貴徳被告に殺害され、遺体をバラバラにされた東城瑠理香さんには、父、母、姉、妹の家族がいました。そして、叔母夫婦といとこたちも、一つの家族同様でした。

 姉は、916号室に帰宅した際、東城さんがいないことをおかしいと思い、マンションの内外をすぐに探しました。被害者がどうしても見つからず、再度、916室に戻ったとき、玄関の壁についていた血に気付いて、すぐに110番通報しました。「自分が取り乱したら警察の捜査が進まなくなって、瑠理香が見つけられなくなる」と考え、体を震わせながらも「瑠理香が必死で頑張っているから、私もがんばらなきゃ」と思い、夜を徹して警察の捜査に協力しました。

 その後、捜査がなかなか進展しなくても、必ず東城さんが帰ってくると信じ続け、東城さんのことだけを考えながら、仕事も辞めて被害者の帰りを祈り続けました。

 父は姉から連絡を受け、すぐに916号室に駆けつけました。しかし、東城さんが殺害された(昨年4月)18日午後11時ごろの直前、(東城さんと姉が住んでいた現場マンションに)到着していたのに、何もすることができませんでした。母も姉から連絡を受け、東城さんを心配する叔母夫婦ら3人とともに長野市から東城さんの元に駆けつけました。

 しかし、19日午前2時前ごろ、東城さんを心配するあまり、足がふらついて立っていることすらままならない状態で母がマンションに到着したとき、2軒隣の星島被告の部屋では、東城さんの遺体の損壊が始まっていました。

 姉も父も母も、一つ置いて隣の918号室で、東城さんが殺され、その遺体が損壊されて捨てられ、東城さんの存在が消されていくことを知らないままでした。遺族は、東城さんの生存を信じ続け、帰りを待っていました。姉が「あんなにそばにいたのに、全然気付かなくてごめんね」と話したように、遺族は近くにいながら、東城さんを助けることも、見つけることもできなかったことを、悔やみ続けています。

 下水道管から発見された骨片や組織片が、DNA型の鑑定により東城さんのものと判明しました。しかし、遺族はそう聞かされても、東城さんの死を受け入れることはできませんでいした。誰も東城さんの遺体と対面し、最後のお別れをすることができなかったからです。

 事件から9カ月がたちました。母は「私たちはまだ、瑠理香の死を受け入れていないから、まだ仏壇はつくりません」と話しています。また、「瑠理香が大きなバッグを持って、『ただいま、ルリだよ』って帰ってきてくれそうな気がします」とも話しています。

 父は「瑠理香が殺されてバラバラにされ、下水道に流されたという話が、どうしても夢の中の話のように思えてなりません」と話しています。

 「お墓は、私たちみんなが、本当に瑠理香が死んだと理解できてから、つくるつもりです」。姉はこう言います。

 遺族はいまだに東城さんが死亡したことを心から現実のこととして受け入れることができません。母はいつも、食事も飲み物も東城さんの分まで用意して、「ルンちゃんの分だよ、一緒に食べようね」と語りかけているそうです。姉も東城さんの24歳の誕生日には「そこにいると思って、みんなでお祝いしました」と話しています。

 遺族は今も、東城さんの帰りを待ちわびているのです。


■遺族の悲しみから目をそらせてはならない


 星島被告は遺族に何ら謝意の措置も講じていません。もちろん、今後もその見込みはありません。星島被告は、遺族に謝罪すらしていません。

 遺族の苦しみ、悲しみ、つらさは、姉や母の証言、父の供述調書に現れているとおり、計り知れないものがあります。

 「他の殺人事件の遺族に共感が持てなくなり、自分から人間らしい心が失われてしまったような気がしてなりません」。母はこう話しています。姉は「うちらは何も悪いことをしていないから、神様とか先祖とかがきっと守ってくれるから、瑠理香は絶対に見つかると思っていたのに、こんなことになってしまって、何も信じられない」と話しています。

 父も「(東城さんの)無念を考えると、私は何もかもがいやになってしまいました。死にたいと思いました」といいます。遺族は、事件後、星島被告の身勝手きわまる犯行のために苦しみ続けています。遺族のこの苦しみから目をそらせてはならないと考えます。

 「瑠理香に何もしてあげられなかった母親として、すごく情けないという気持ちでいっぱいです」「大きな、とても大切な宝物をなくしてしまい、心が固まってしまい、私も長女も泣くことができません」と母親は話しています。

 姉が「自分の心はぽっかり穴が開いて、なくなってしまったと思います」「せめて、もうデザインも決めていたウエディングドレスを着せて、顔の周りをお花でいっぱいに埋め尽くしてあげて、棺に入れてあげたかった」などと話したように、宝物にしてきた東城さんの存在を失った遺族の悲しみは、測りがたいほどに深く、癒しがたいものです。遺族のこの悲しみからも、やはり目をそらせてはならないと考えます。

 母は「なんで瑠理香が埋め立て地のようなところに捨てられなきゃいけないのか。瑠理香は気が狂っちゃっているような気がします」「被告人は本当に、人間じゃない」と話しています。

 姉も「人の命を何だと思っているんだ。そんなに簡単に決められたくない」「(葬式の日からきょうまで)絶対に犯人を死刑にしてやると思って、頑張ってきました」「(被告人が)死んでも許さない。お墓ができたら、ハンマーを持って殴りにいきたい」と話したように、理不尽な理由と残酷な殺し方で東城さんを奪われた遺族の怒りは激しいです。遺族のこの激しい怒りは、十分に理解できます。

 遺族にとって被害者は、自慢の娘であり、記憶にある最初の日からともに人生を歩んできた妹であり、あこがれの姉であり、目標とするいとこでした。

 その大きく大切な存在を、被告人の身勝手きわまる動機から「消されて」しまった遺族の思いは、察して余りあるものがあります。

 被告人が死刑に処せられることを遺族が強く望むのは、当然なのです。

 もはや、誰も東城さんの声を聞くことはできません。母が「瑠理香は体を切り刻まれ、すべてバラバラにされて顔も体も見られなくなってしまったんですけど、でも、魂だけはみんなの元に帰りたいという一心で、第2頸骨(下水道から見つかった東城さんの骨の一部)に魂を込めて帰ってきてくれたんだと思います」と証言するように、東城さんの魂は、今、遺族とともにあります。

 東城さんが法廷に現れることも、自分の気持ちを伝えることもできないからこそ、遺族の気持ち、そして遺族の言葉を重く受け止めなければなりません。法廷で自分の言い分を主張できる被告人に目を奪われ、遺族の素直な気持ちが軽視されるようなことは絶対にあってはならないと考えます。

=検察側論告(5)に続く

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