大相撲史上まれに見るヒール(悪役)が復活を遂げ、一転ヒーローに—。横綱朝青龍は復活の優勝を遂げると思わず涙ぐんだ。「朝青龍、帰ってきました」。優勝インタビューで喜びを素直に表現する姿に会場からは大きな拍手が送られた。そんな“朝青龍フィーバー”にさまざまな声が上がった。
場所前は遠回しに休場を勧めていた日本相撲協会の武蔵川理事長(元横綱三重ノ海)は、白星を重ねるにつれて賛辞を並べ始めた。「精神力、集中力がずばぬけている。普通では考えられない」。さらに「朝青龍がいると雰囲気が違う。お客さんが盛り上がってくれている」と脱帽した。
朝青龍関の存在感は、さまざまな問題をかき消してしまった感さえある。相撲漫画「ああ播磨灘」を描いた漫画家さだやす圭さんは「『帰ってきました』の言葉にもらい泣きした。朝青龍は最高のヒール。先輩を先輩とも思わない言動をしたりするが、やはりあれだけ強い性格じゃないと駄目ということ」と、批判される負の側面も強い横綱の個性としてマイナスしない立場だ。
一方で横綱らしからぬ振る舞いに非難も噴出している。今場所も無用な駄目押しは珍しくなく、勝負がついた後もしつこく相手をにらみ続ける場面も。元大関武双山の藤島親方は「今場所に限らず、朝青龍の土俵態度は横綱以前の問題。力士としてやってはいけないことが多すぎる」と厳しい視線を向けた。
相撲協会の再発防止検討委員会で外部有識者委員を務める漫画家のやくみつる氏は「完全に復活した」と相撲内容を評価しつつ「逆に注文も増えた。強さが戻っただけでなく、以前の傍若無人に振る舞う朝青龍に戻りかねない。上の人が苦言を呈するようにしなければ」と注文をつけた。