大手自動車メーカーが減産を進める中、自動車関連の業務を請け負っている障害者の職場でも、仕事が減っている。世界的な不況の波は、障害者の社会参加をも脅かしており、全国社会福祉協議会では、関係する授産施設を対象に、不況の影響について近く全国調査を行う方針だ。
東京都大田区の授産施設「とちの実作業所」には、軽度の知的障害者など20人が通う。安定して請け負ってきた仕事が、北米向け乗用車の座席に入れる消音用カバーにゴムひもを通す作業。1か月の作業所全体の平均収入約23万円のうち、この仕事を発注する部品メーカーからの収入が多い時は半分近くを占めていた。しかし、昨年10月以降はこの仕事の注文が激減し、12月の納品を最後に注文がなくなった。
「金融危機でアメリカの仕事が減っちゃってね」。施設長の黒田浩康さん(47)は通所者にそう説明するしかない。通所者に払う「工賃」は、昨秋までは月約1万円だったが、11月は約9000円、12月は約7000円。「元々少ないのに、申し訳ないの一言」と黒田さんは話す。
通所者の一人、笹川正一さん(55)の月々の収入は、工賃や障害年金、区から出る福祉手当で約9万3000円。グループホームの家賃や光熱費などを差し引くと、手元に残るのは1万2000円前後で、この中から、グループホームの食事が出ない週末の食費や洋服代などを工面する。週末の食事は100円均一のコンビニ店のおにぎりやパンで済ませているという。
「作業所は、人とのかかわりや金銭管理などを訓練する場でもあり、明日こんな仕事があると楽しみにしている人もいるのに」と黒田さん。車の座席カバーにひもを通す別の仕事などを続けているが、発注側からは「注文量が少ないからあまり急がなくていい」と言われているという。
愛知県小牧市の「すずかけ共同作業所」では、知的障害者など通所者約15人が、トヨタ車の窓ガラスを梱包(こんぽう)する段ボール製の緩衝材を作っているが、昨年11月中旬以降、1日の製作個数が半減して600〜700個に。今月から、単価も16円から10円に引き下げられた。
多い月で40万円ほどだった作業所の収入が12月は25万円。工賃カットも検討せざるを得ない。作業所に20年ほど通う吉川光男さん(56)は「自動車業界が大変なのは分かるけど、工賃が減るのは困る」と不安そう。指導員の光岡秀昌さん(44)は「『役立っている』という気持ちが彼らの支えなのに、散歩などで時間をつぶす必要が出てきた」と話す。
不況が授産施設に与えている影響について全国調査を予定している全国社会福祉協議会は、「企業が決算期を迎える年度末に大きなしわよせが来る恐れもある」と、障害者の生活が深刻化することを心配する。全国の共同作業所などで作る「きょうされん」(東京)も、「仕事が減って給料が出ないと、障害者が通所しなくなり、社会との接点が断たれてしまう可能性がある」と危機感を強めている。