記事登録
2009年01月25日(日) 00時00分

(3)優れた研究 劣る発信力読売新聞


ノーベル賞晩さん会でスピーチする小林誠さん(12月10日夜、ストックホルム市庁舎で)

 昨年12月10日夜、スウェーデンのストックホルム市庁舎で盛大なノーベル賞晩さん会が開かれた。正装の紳士淑女を見下ろすステージから、日本学術振興会の小林誠理事が受賞者を代表して「宇宙には多くの謎が残っており、仲間と一緒に追い続けたい」とスピーチ、翌朝の地元紙は「日の丸が祝宴を席巻」と報じた。

 数ある賞の中でも、ノーベル賞は別格だ。自然科学3賞で226人の受賞者を出している米国でさえ、大学などは、輩出したノーベル賞学者の数を宣伝する。

 国や研究機関の威光を高めるだけでなく、現実的な利益も生む。昨年12月の予算編成では、基礎研究を担う科学研究費補助金(科研費)が2%伸びた。厳しい財政事情の中、塩谷立文部科学相も「ノーベル賞の効果」と認める。

 それだけに、どの国もノーベル賞の「評価」を得ようと躍起だ。

 政府は2001年、「50年間で30人のノーベル賞受賞者を出す」と打ち上げ、ストックホルムに日本学術振興会の研究連絡センターを新設した。シンポジウムを開催したり、スウェーデン王立科学アカデミーとの連絡窓口を務めたりして、学術交流を支援する。小野元之理事長は「特別なロビー活動はしていない。地道な学術情報の発信や交流がノーベル賞につながる」と話す。

 ノーベル賞に大国の威信をかける中国政府は、選考委員を国内に無料招待するなど、情報収集に力を入れる。こうした中には、スキャンダルに発展するものもあり、昨年12月のノーベル賞授賞式直後、スウェーデンのメディアなどは「スウェーデン検察当局が、汚職の容疑で予備的な捜査を始めた」と報じた。

 選考委員らを招くのは日本の大学なども同じ。研究者の間では「スウェーデンからシンポジウムの招待があれば、断る科学者はいない」と言われるほどだ。

 ノーベル賞の存在は、人口900万人の小国スウェーデンの「価値」をも高める。

 それに比べ、日本は優れた研究成果がありながら、情報の発信がまだ苦手だ。

 ノーベル賞の選考は、研究者からの推薦で始まる。ノーベル財団から推薦依頼が届くのは、約3000人と限られる。だが、ある国立大学教授は「忙しい中、それなりの理由を挙げて英語で推薦状を作るのは大変」と打ち明ける。推薦の「特権」さえ行使しきれていない。

 内閣府幹部が01年、積極的な返信を呼びかけ、「ノーベル賞の推薦状が机の引き出しで眠る現状は、日本の研究評価の貧しさを物語る」と批判したが、評価が根付かない風土は変わらない。

 昨年10月、日本人としては史上3人目となる国際科学会議副会長職に就任した東京大の黒田玲子教授は「外国の学者と対等につきあい、人脈を作るのが不得手な人が多い。これでは国際社会で日本の存在はアピールできない。視野を広げ、社会や文化にもっと関心を持つことが必要」と指摘している。

http://www.yomiuri.co.jp/science/tomorrow/tr20090125.htm