2009年01月24日(土) 00時21分
「実刑望む」「立派な大人になれ」…初の被害者参加公判(読売新聞)
犯罪被害者や遺族が刑事裁判で被告に質問したり、求刑の意見を述べたりできる「被害者参加制度」が適用された二つの公判が23日午後、東京地裁で開かれた。
交通死亡事故の遺族は「実刑を求める」と述べ、傷害事件の被害者は若い被告らに立ち直るよう諭した。昨年12月に導入された同制度で、被害者・遺族が参加した公判が開かれたのは初めて。「被告に罪の重さを自覚させる効果があった」。傍聴した専門家はそう評価している。
遺族が参加したのは、東京都千代田区で昨年8月、オートバイの男性(当時34歳)をはねて死亡させたとして、自動車運転過失致死罪に問われたトラック運転手海野尚康被告(66)の初公判。男性の妻と兄は検察官の横に着席。隣には被害者側の弁護士が座った。
被告人質問の冒頭、海野被告は「大変申し訳ないことをしました」と頭を下げた。検察官の質問に続き、男性の兄(35)が用意した書面を手に、事故後の対応などについて尋ねた。
「事故現場で手を合わせたことがあるか」と聞く兄に対し、海野被告は「仕事で事故現場を毎日通るので、心の中で手を合わせている」と説明。「あなたが考える誠意とは」との問いには、「お線香をあげて謝るしかないです」と答えた。
検察側は、論告で禁固1年6月を求刑。続いて男性の妻(34)が「遺族のことだけを考えられる場所、刑務所で罪を償ってほしい」と訴え、最後は裁判官の方を向き、「被告は反省をしていない。実刑を強く望む」と述べた。最終意見陳述で、海野被告が「(言いたいことは)別にございません」と答えると、妻は目に涙をため、顔を伏せた。公判は結審し、2月20日に判決が言い渡される。
一方、新宿区の路上で通行人に因縁をつけ、けがをさせたとして傷害と恐喝未遂の罪に問われた飲食店従業員相蘇義士被告(21)と同伊藤瞬被告(21)の公判では、被害にあった男性会社員(52)が参加し、自ら被告人質問を行った。
男性は相蘇被告に、「人生をやり直し、立派な大人になって戻ってきてもらいたい。(求刑意見で)私が厳しい判断をしたら、私を恨むか」と問いかけ、相蘇被告は「恨みません」と答えた。
伊藤被告に対しては「なぜ暴力を振るったのか」と尋ね、同被告が「就職に失敗し、投げやりになった」と答えると、「投げやりになったら人を殴っていいのか」と強い口調で諭した。
◇冷静さ保つの苦しかった…遺族が会見◇
交通事故で亡くなった男性の妻と兄は閉廷後、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見した。妻は「思っていることを言うことができ、意義があった」と話す一方、法廷での被告の態度について、「誠意が感じられず、怒りがわいた」と涙ながらに語った。兄は「冷静さを保つのは苦しかったが、自分たちが前例になると思い、感情的にならないよう心掛けた」と述べた。
この裁判を傍聴した「全国犯罪被害者の会」の代表幹事で、妻を殺害された岡村勲弁護士(79)は「黙って見ているだけだった私たちの裁判と違い、被害者の地位がしっかりとあった。懸念されていた『報復の場』にならず、よく整理された法廷だった」と語った。
交通事故で次男を亡くした「被害者と司法を考える会」の片山徒有(ただあり)代表(52)は「遺族の心情は伝わったと思うが、悲嘆にくれる様子が傍聴席にさらされ、負担の大きさも感じた」と指摘した。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090124-00000000-yom-soci