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2009年01月20日(火) 00時00分

武士猫 玉平くんのギャップにやられる読売新聞


看板ネコの玉平くん、深いグリーンの瞳がチャームポイント。(撮影:鈴木美也子)

九里九馬の店名は、水に長けた豪族の名前に由来する。(撮影:鈴木美也子)

アイスコーヒー(400円)湧き水をネルドリップした、透き通るおいしさ。(撮影:鈴木美也子)
名水で淹れたコーヒーに、名水で育った美猫

 名水「伏見水」が有名な京都・伏見区。喫茶店「九里九馬(くりくま)」は、“寺田屋事件”でおなじみの、坂本龍馬が常宿にしていたことで知られる「寺田屋」から程近い場所にある。風情ある通りの名は、“竜馬商店街”。さて、「九里九馬」を常宿にし、竜馬商店街を縄張りにする、これまた風格のある猫がいるという噂を聞きつけ、早速駆けつけた取材チーム。約束の時間に訪ねたところ、残念なことに散歩に出かけたあとだった。幸い次の取材まで時間があったので、マスターとそのお母さんであるオーナーから、「玉平(たまへい)くん」の武勇伝を聞きながら彼を待つことにした。「たいした猫だよ、玉平は」と語ってくれたお母さん。頭が良くて狩りも得意な一家のリーダー格。家族を守るその気概はまるで武士のようだとか。武士のような猫とははじめてだ。これは会わずに東京に帰るわけにはいかない。期待が膨らむ。

 「九里九馬」は創業40年の、知る人ぞ知る老舗カフェ。一見モダンな雰囲気だが、一歩足を踏み入れると昔ながらのカフェの重厚な空気が満ちていて、空気感を味わうだけでも楽しい。床は石でできており、夏はひんやり、冬は暖かいだろう。アートスペースにはお母さんセレクトの絵や骨董品が。気に入れば買えるのも楽しい。コーヒーは湧き水「伏水」をネルドリップ。どんなミネラルウォーターもかなわないほど、クリアな味わいは贅沢品と言っていい。地域の住人は、小学校や役所などに湧いている水を汲んで料理にも使っているとのこと。玉平くんはこの美味しい水で育った幸せな猫ちゃんということだ。

 2時間ほど待ったそのとき、ドアの外にグレーのシルエットが浮かび上がった。「玉平!おかえり」とドアを開けてなかに入れてやるマスター。トコトコというよりは、のしのしという擬音が付きそうな力強い歩き。第一印象は、「しっかりとした骨格のキジトラ雄猫。ケンカが強そう」であった。武士猫・玉平くんは、見慣れぬ取材陣と撮影機材を見て少々興奮気味。マスターがよしよし、と声をかけてしばらくのあいだ体を撫でてやると、すっかり落ち着いて今度は一転、とろんとした表情になった。

 外はもう夕暮れ時。黒目がちになったグリーンのお目目から窺う表情は、どう見てもあまえんぼうそのもの。武士の面影はあとかたもなく消えていた。そのうち、私たちにも慣れてくれたようで、ちょこちょこと歩きながら、「ニャ、ニャ〜ン、ニャ」と話しかけてくる。女性に限らず、人間は「ギャップ」に弱い。いい意味で別の顔を見せられると、とたんにその人物が気になりだす。そんな経験をしたと友人たちからもよく話には聞いていたのだが、そのとき、私は「猫の」玉平のギャップにやられてしまっていた。

 玉平くんは踊るような足取りでお母さんのところへ。お母さんの前のテーブルに上って、撫でてくれ、と甘える。どうやら彼はお母さんがいちばん好きらしい。お母さんに撫でられると、さらにあまえんぼうの顔になって、伸びたりテーブルにからだを擦り付けたり。なんとも愛らしい様子を見せてくれたのだった。

 本誌には、大好きなお母さんを見つめる、玉平くんの“萌えショット”を掲載。その視線の先のお母さんをイメージしながら、写真を楽しんでいただきたい。

 私たちは誰でも、表裏というほどではないが、いくつかの顔を持っているものだ。仕事場で、家庭で、友人との場で、夫や恋人の前で。とくに大切なひとの前では、いちばんリラックスして輝いた表情を見せているのではないだろうか。そんな表情ができるひとと、一緒にいられるのは幸せだ。玉平くんにとっての、お母さんの存在のように。

    九里九馬 くりくま       場所 京都府京都市伏見区車町273       TEL:075-611-5663

http://www.yomiuri.co.jp/komachi/pet/neko/neko090120.htm