2009年01月18日(日) 02時33分
<WHO>生活習慣病の危険度、腹囲を基準に(毎日新聞)
心臓病や糖尿病などになりやすい人を見つけるための新しい基準として、世界保健機関(WHO)が腹囲を採用することになった。WHOは従来、肥満度を示すBMI(体格指数)が25以上の「肥満」を高リスク集団としてきたが、アジア人にはBMIが低くても心臓病などで死亡する例が多い。新基準はアジア地域では「男性85センチ前後、女性75センチ前後」となる見込みで、導入されれば日本の「メタボ健診」の腹囲基準に影響を与える可能性がある。【永山悦子】
◇BMIから変更
WHO本部(スイス・ジュネーブ)で12月開かれた専門家会合で決まった。6月ごろ正式決定する。
BMIは、体重を身長(メートル表示)の2乗で割った数値で、WHOはBMI25以上を「肥満」とし、心臓病や糖尿病、高血圧などの生活習慣病への注意を呼び掛ける基準としてきた。しかし精度への疑問の声もあり、BMIに代わる新しい基準を検討していた。
同会合で約600の文献を検討した結果、アジアではBMIが25以下でも心臓病や糖尿病になる危険性が高く、BMIより腹囲を使った方が、より正確に高リスク集団を見つけられると判断した。
新基準は、体格などの違いを考慮して3種類とする。アジアなど、腹囲が細くても病気になりやすい人が多い地域(男性85センチ前後、女性75センチ前後)▽欧米など、腹囲が太いと病気になりやすい地域(男性100センチ前後、女性90センチ前後)▽中東などどちらでもない地域(男性95センチ前後、女性80センチ前後)−−とする方向で検討中だ。
日本では08年度、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)対策の特定健診(メタボ健診)が始まった。この場合の基準は「男性85センチ以上、女性90センチ以上」。WHOは、この新基準をメタボ健診の基準とは別の概念と位置付けており、特に健診制度や血液検査が普及していない発展途上国などでの活用を見込んでいる。
◇メタボ健診
腹部に内臓脂肪のたまったメタボリックシンドロームの人は、脳卒中などを発症しやすいとの学説に基づいて、08年度から導入された健診制度。妊婦などを除く40〜74歳が対象で、医療保険者(健保組合など)に実施が義務づけられる。腹囲が「男性85センチ、女性90センチ以上」など一定の基準を超えた場合は生活習慣改善を指導する。
◇解説…「やせ=健康」先入観排除
WHOが、生活習慣病の危険性を判断する目安として、肥満度を見るBMIに代わって腹囲を採用することになった背景には、「肥満でなければ生活習慣病にはかからない」という先入観が、予防や発見・治療を遅らせる例が少なくないことがある。
例えば日本の糖尿病患者はやせていても発症する例が多い。WHOはこうしたアジア人の特性を考慮し、BMIより腹囲の方が、隠れた病気を見落とす可能性は低いと判断した。もちろん腹囲も肥満の人ほど大きい傾向はあるが、新基準はアジア人の基準を欧米など他地域より細めに設定し、高リスク集団を見つけることを目指す。
一方、日本のメタボ健診は、診断の第一条件に「腹部肥満」を据えたため「男性85センチ、女性90センチ」という数値が独り歩きし、「腹囲が基準以下なら健康」との先入観を受診者に広げた。同じ仕組みを採用している国際糖尿病連合は、腹囲をメタボ基準の必須項目から外す方向で検討中だ。
WHOの新基準をこのまま日本人にあてはめた場合、大勢の男女が該当したり、メタボ基準との並立で混乱を招く可能性もある。「科学的根拠に乏しい」と言われるメタボの腹囲基準の見直しも含めて、整理が必要だろう。
基準を検討するWHOの専門家会合に出席した門脇孝東京大教授(糖尿病・代謝内科)は、「WHOの基準は病気の危険性に気付く目安として使ってもらえばいい。数値で一喜一憂するためのものではない」と説明する。【永山悦子】
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