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2009年01月18日(日) 14時27分

“妄想殺人”だった江東女性会社員殺害 奇妙な自信と劣等感に支配された被告産経新聞

 「『性奴隷』にしようと考えた」。東京都江東区のマンションで、2軒隣の東城瑠理香さん=当時(23)=を自室に拉致して殺害、遺体を切断してトイレから流したとして殺人罪などに問われた星島貴徳被告(34)は13、14日の公判でそう供述した。「セックスで快楽を与えれば、100%自分の言うことを聞く女性を作れると思った」。信じがたい“妄想”の末の犯行。その背景には、自身の身体への強烈な劣等感があったことも法廷で明らかにされた。驚くべき犯行描写を繰り返す公判は今週も19、20、22日と東京地裁で続く。

【初公判ライブ】(1)動機は「性奴隷」 交際経験ない被告

 ■「自分なら性奴隷にできる」自信の不可解

 星島被告「自分の部屋に連れてきて、性的快楽を与え続け、自分の思うようにしようとしました。『自分ならできる』と思いました」

 検察官「(被害者を)何にしようと思ったのですか?」

 星島被告「『性奴隷』です」

 検察官「『性奴隷』とは何ですか」

 星島被告「私とのセックスに依存し、私を必要に思うような女性です…」

 検察官「あなたは、自分の言うことを100%聞いてくれる女性が、いると思っているのですか?」

 星島被告「いないので、作ろうと思いました」

 初公判が行われた13日の東京地裁。殺人、死体損壊、死体遺棄など5つの罪に問われた星島被告は、青白く生気のない顔で、淡々と、前代未聞の動機を披露した。

 「セックスの快楽を拉致してきた女性に与え続け、自分とのセックスなしでは我慢できない依存体質にする。そうすれば、何でも言うことを聞くようになる」−というのがその論理で、「警察に訴えられないようセックスで調教しようとした」という供述もあった。

 これらの妄想を実行に移すことは、マスターベーションをしている最中に思いついたのだという。

 一方で星島被告は法廷で、34歳の現在まで、1回も女性と交際したことがないことを明かした。

 「初めての性行為は5年ほど前。東京・鶯谷のデリヘルで」

 その供述が本当ならば、20代後半で初体験を済ませたことになる。その後の性体験もすべてお金を払っており、現在の体験人数は計10人程度だと説明した。

 「女性を性奴隷にする」というのは、アダルトビデオや成人漫画を参考にしていた。自分でも「外道」とするタイトルの同人誌を作り、強姦シーンを掲載していた(法廷での検察官の発言。本人は強姦シーンという解釈を否定)というが、拉致した女性に告訴させないほどとりこにできる、という異常なまでの自信は何を根拠にしたものだったのだろうか。

 ■あっさり計画つまずき「証拠消さなくては」

 星島被告は、実際は姉と2人で住んでいた東城さんが1人暮らしのOLだと思いこんでおり、金曜日に拉致すれば月曜日の朝まで犯行がばれないと考えた。実際に東城さんの拉致に及んだのも昨年4月18日の金曜日だった。「月曜日の朝まで強姦を続ければ性奴隷にできる」と考えたのだ。

 午後7時半ごろに東城さんを拉致するが、星島被告の狂気の計画はすぐに破綻(はたん)する。「性奴隷」などと意気込んでいたものの、実際に犯行時は勃起しなかったのだ。

 さらに、拉致の際に東城さんが顔にけがをしたのを見て、「瑠理香さんを自分のものにできない。気持ちよくさせることができない」と考えたという。なぜけがをすると「自分のものにできない」のか。その理由は法廷で語られなかった。

 星島被告は縛った東城さんを床に転がしたまま、部屋でアダルトビデオを見るなどして過ごした。そして午後10時20分ごろ、警察官がドアをノックしたことで「生活と体面を失う」と考え、約20分間のうちに東城さんの殺害を決意。同11時ごろ、首を包丁で刺して失血死させた。

 遺体を前にした当時の感想を検察官に問われると、こう供述した。

 「自分が逮捕される証拠、邪魔な存在、消さなければいけない存在だと思いました」

 そこには被害者の生命の重さへのおののきはおろか、殺人という罪の重さを認識している様子はなかった。

 ■被告の劣等感

 女性への妄想のほか、星島被告から感じられるもう1つの妄想は「被害妄想」だ。

 公判では、自らの体に「悪口を言われたら殺してしまうかもしれない」というほどの強烈なコンプレックスを持っていたことが明かされた。その深層心理は、検察官がぶつけた恋愛に関する意識を問う質問で明らかになった。

 検察官「現実の女性を毛嫌いしていたのですか」

 星島被告「そうです。あきらめに近いです。自己嫌悪の裏返しというか…」 

 女性を毛嫌いしているとしながらも、複雑な感情をにじませる星島被告は、「女性とデートや買い物をしたり、普通の交際をしたいと思っていました」と言葉を続けた。

 検察官「あなたにとって、現実の女性の何が気に入らなかったのですか」

 星島被告「…私のことを気持ち悪いと思う心だと思います」

 「現実の女性と交際するために、何か行動したことがありますか」と聞かれた星島被告は、「していませんし、無駄だと思います」と拒絶し、こう告白したのだ。

 「私の両足にはやけどの跡があります。それが原因です。もし『気持ち悪い』とか『きもい』といわれれば、殺してしまうかもしれません」

 やり取りは続く。

 検察官「世の中すべての人間が(やけどを)気にすると思っていたのですか」

 星島被告「ばかにされると思っていました。私もばかにしていましたし」

 検察官「傷つけられるのを恐れていたのですね」

 星島被告「はい」

 やけどは幼いころの火事で負ったものだという。やり取りでは、「逆に言えば、私の足を好きだと言ってくれれば、何においても、何に代えても大切だと思います」と星島被告が心情を語る場面もあった。

 だが、「何に代えても大切」という言葉は、検察官が聞いた別の質問で自ら消し去ってしまう。「あなたは、世の中で何が一番大事だと思っていましたか」という質問だ。

 星島被告は、少し考えてこう答えた。

 「自分、だと思います」

 ■凄惨な法廷…その理由

 公判では星島被告が罪を認めたため、主な争点が量刑に絞られ、殺害や遺体をバラバラにする作業がどのように行われたかについての争いはない。審理があまりに残酷な内容のため、法廷は異様に重い空気に包まれている。

 裁判所に採用された証拠を示す手続きでは、検察側が、発見された東城さんの骨49個、肉片172個を、傍聴席からも見ることができる大型モニターに映し出した。同様の刑事公判としては異例の措置だ。

 さらに、星島被告が遺体をバラバラにした経緯についても、マネキンやイラストで再現した画像を映した。「裁判員制度を意識した取り組み。裁判員になれば、法廷で(さまざまな証拠を)見てもらうことになるというメッセージ」(東京地検幹部)という。

 それだけではない。検察側が再三にわたって遺体の処分の様子を事細かに被告に供述させ、入手している証拠を目に見える形で提示する理由は、「遺体がほぼ完全に損壊され、残っていない」という部分にたどりつく。供述がいかに具体的で、真犯人でなければ語れない内容を含んでいるということを法廷で示さなければ、事件が崩れてしまう恐れがあるためだ。

 そういう意味では、きわめて特異な裁判になっている。

 だが、生々しい内容に耐えられなかったのか、途中で遺族の女性が傍聴席を立ち、廊下で号泣する声が法廷に届く場面もあった。これが影響したのか、直後には、星島被告が「絶対に死刑だと思います」と不規則発言し、検察官にいさめられた。

 ■証拠隠滅を徹底…「バラバラにしてもとの生活に戻ろう」

 検察側の被告人質問では、星島被告が「相手は誰でも良かった」、「自分の部屋に一番近いから」と、東城さんに狙いを定めた理由を述べ、実際に犯行当時には東城さんの名前も知らなかった上、東城さんの姉と混同して認識していたことが明らかになった。

 その一方で、計画性や、発覚を防ぐ証拠隠滅の徹底ぶりが感じられた供述も多い。

 その一例は、普段から電気メーターを見て東城さんの帰宅時間を確認していたという供述だ。

 また、発覚後は血痕や足跡、指紋を消しているほか、遺体の一部を流した排水溝のつまりを防ぐための洗浄剤や新しい靴も購入していた。

 警視庁の捜査員が、殺害翌日の4月19日午後に星島被告宅に入ったものの、遺体の一部が入っていた段ボールをチェックしていなかったことも判明した。星島被告は自ら「中身を見ますか?」と話を向けたとし、「あえて言えば(捜査員が)気力をなくすだろうと裏をかきました」という冷静な心理戦術だったことを明らかにした。

 また、殺害に使った包丁が東城さんの家から持ち出したものだった理由を聞かれると、「自分の道具を人殺しに使いたくなかった。殺して、バラバラにして証拠をなくして、もとの生活に戻ろうと思っていました」と述べた。

 星島被告は逮捕直前の派遣社員時代、「仕事が速い」と評価を受け、手取りで月給50万円を得ていたという。そうした能力の高さが犯行や証拠隠滅の合理性につながっている面があるのだろうか。あまりにも身勝手で寒々しい。

 次回の第3回公判は19日午前10時に開廷し、検察側が3回目の被告人質問を行う。順を追って経緯を聞いているため、遺体解体についての質問などが行われるとみられる。終了後は、弁護側が初の被告人質問を行う予定だ。その後も公判は20日、22日、26日と集中審理が行われ、第7回の2月10日に判決が言い渡される。

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