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2009年01月17日(土) 12時58分

弟と万引き、罪逃れに他人になりすました4児の母産経新聞

 初公判が開かれた1月15日は、皮肉にも被告の28回目の誕生日だった。本来なら、家族とともに楽しく過ごすはずだったこの日を台無しにしてしまったのは、他の誰でもなく被告本人だった。

 スーパーで菓子を万引した上、警察署での取り調べで、他人の名前を利用し、署名したとして、窃盗などの罪に問われた女性被告(28)の初公判が15日、東京地裁で開かれた。

 グレーのトレーナーに黒のパンツ姿で法廷に現れた被告は公判中、あふれる涙を抑えきれない様子で、何度もハンカチで目元をぬぐっていた。被告の子供たちが、勾留(こうりゅう)中の母親にあてた手紙が読まれると、激しく肩を震わせむせび泣いた。

 検察側の冒頭陳述などによると、4児の母である被告は昨年9月24日、弟と一緒に、東京都足立区の大型スーパーで菓子49点(販売価格合計7379円)を万引したという。

 被告の万引行為は今回が初めてではなかった。平成13年と15年にも検挙され、18年には母親とともにスーパーで万引をした罪で、懲役1年、執行猶予3年の有罪判決を受けていた。今回は、その執行猶予中の犯行だった。

 警察官に引き渡された被告は、執行猶予中にまた万引をしたことで、刑務所行きになることを恐れ、自分の名前を明かさず、友人の名前を名乗り、供述調書への署名にも友人の名前を使っていた。被告は、警察官に友人の名前を名乗った上で、財布の中に入れていた友人の免許証を自分の身分証明書として警察に出したという。免許証は友人が被告宅に置き忘れたものだった。財布の中には被告本人名義のキャッシュカードなども入っていたが、被告は「家出した友人のカードを預かっているだけ」などとウソをついていた。

 さらに、一緒に捕まった弟や面会に来た母親までもが、被告がその友人であるかのように装い続けていたという。罪状認否で、被告は罪を認めた。

 万引を繰り返した揚げ句、名前まで偽った被告に対する検察官の追及は、予想以上に厳しかった。

 検察官「これまで同じスーパーで少なくとも4回、万引したの?」

 被告「はい」

 検察官「18年9月の裁判で、『もうやらない』と誓ったよね?」

 被告「はい…」

 検察官「じゃあ、なんでまた万引したの?」

 被告「金銭的な余裕がなくて…」

 6年前に夫と死別し、1人で4人の子供を育てているという被告は、万引の理由を「金銭的に厳しかったから」「子供のお菓子がなかったから」などと涙ながらに語った。だが、月に35万円もの生活保護を受けているという被告の“必死の訴え”はあまりにも白々しかった。

 検察官「あなた、こんなこと言っていて、本当に反省しているんですか!」

 被告「…。しています…」

 口では“反省”を繰り返した被告だったが、その後の質問では、罪を逃れるためのあきれた言動が明らかになっていった。

 検察官「(被告が名前を利用した)友人から問いつめられたんですよね? そのとき、どう対応したか覚えてる?」

 被告「『このまま黙っていて』と…」

 検察官「『生活の面倒みてあげるから、このまま黙っていて』と言ったんでしょう? できればごまかしたい気持ちだったんでしょう?」

 被告「…。はい…」

 検察官「だから、そのあと警察に出頭したときも、また別のウソの名前を言ったんでしょう?」

 被告「はい…」

 被告に自分の名前を使われたことで犯罪者として扱われ、生活保護を打ち切られそうになった友人から詰め寄られた被告は、しぶしぶ警察署に出頭したものの、そこでも再び偽名を名乗ったという。しかも、その名前は弟の交際相手のものだった。

 被告は、友人のことを「お互いに許し合える関係」であると語っていたが、友人が同じ気持ちだとは到底思えない。病的なまでにウソを繰り返した被告に、裁判官もあきれた表情を浮かべていた。

 「子供のために、今後は2度と万引をしない」と誓った被告。だが、本来なら、被告を監督する立場にある家族も万引に加担したり、被告のウソに同調したりしていて、更生の環境は全く整っていない。

 検察側は、懲役2年6カ月を求刑。判決は今月29日に言い渡される。(徐暎喜)

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