指定暴力団稲川会の本部事務所の移転問題が、東京都港区赤坂6にある移転先ビルの周辺住民の暮らしに影を落とし始めた。
地元の小中学校は通学路の変更を迫られ、転居を考える住民もいるほか、商店主は商売への悪影響を心配する。警察の24時間態勢の警戒で、組員の目立った出入りやトラブルは起きていないが、「移転は絶対に認めない」とする警視庁と地元住民らは、21日の「暴力団排除協議会」設立を機に、排除運動を本格化させる。
16日午前8時過ぎ、移転先ビルが遠目に見える赤坂9の歩道。ランドセルを背負った児童が数人ずつの集団で登校していた。多くの児童が母親に手を引かれていた。
ビルから約200メートルの場所には、赤坂小学校と赤坂中学校があり、ビル前の道路は両校の通学路だった。しかし、移転が表面化して以降、両校は迂回(うかい)して登下校するよう子どもたちに指導している。
「子どもにもしものことがあったら、取り返しがつかない」と学校関係者は危機感を募らせ、ある保護者も「流れ弾でも当たったら大変。通学路の変更はやむを得ない」と憤る。ビルの近所に家があり、そばを通らざるを得ない子もいる。
付近はマンションや住宅も多く、赤坂6だけで2000人以上の住民が暮らす。全国暴力追放運動推進センター(東京)には、転入予定者から「安全面は大丈夫か」といった相談も寄せられている。転出の動きもあり、4年前から住む女性は、「引っ越したい」と語気を強める。テナントが大家に対し、退去の意向を示しているビルもあるという。
付近は、東京ミッドタウンと昨年開業した赤坂サカスとの間に位置している。大型商業施設の相次ぐ登場で、地元商店街は集客に期待を寄せていたが、ある商店主は「せっかく高まった機運に水を差された」と嘆く。地元の不動産業者も「上昇が見込まれた地価も、暴力団が進出すると下落するかも」と落胆した様子だった。
一方、警視庁関係者によると、住民が初の集会を開いた今月13日頃以降、稲川会の幹部が「赤坂のビルは本部として使わないことに決まった」と話しているという。しかし、同庁では「完全に追い出すまで排除の手を緩めるつもりはない」(幹部)として警戒を続けている。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090117-OYT1T00485.htm