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2009年01月17日(土) 18時43分

【アートな大阪・魅力の明治建築物語】貴重な名建築を残す南海電鉄の魅力産経新聞

 美しい海辺の景色の中を走る電車の窓から、急に野原に建つ煉瓦造の建物を見つけた人は何を想うのだろうか。

 南海本線みさき公園駅南西約1000メートルの線路沿い(西側)に、ポツンと立っている煉瓦造建築が深日変電所(明治44年竣工)である。

 切妻屋根の簡素な建築であるが煉瓦積みの外壁のアーチ窓、丸窓などのデザインがこの建築をより美しいものにしている。

 変電所の設計者はわからないが難波停車場(明治43年)、浜寺停車場(同40年、ともに辰野金吾、片岡安らの設計)などを手がけた南海電鉄のすぐれた設計者集団の関与が窺われる。

 同時期に建てられた旧住之江火力発電所(現存せず)、旧堺火力発電所(平成20年4月13日付け産経新聞に掲載)などに外観はよく似ている。

 それ以外でも、我が国の私鉄では最古の歴史を誇る南海電鉄沿線には、ユニークなスタイルの近代駅舎や煉瓦造建築が現存している。それらの近代化遺産についてすぐれたものについて、将来とも大切に使用していただくよう南海電鉄に要望している。

 また、この変電所の横には明治31年開業の旧深日停車場の煉瓦積、石積のプラットホームが現存している。この駅は、昭和19年、みさき公園駅(旧南淡輪駅)から多奈川駅までの間に軍需輸送目的のために設けられた。南海多奈川線の深日町駅が設けられた時に廃止されたが、明治期のプラットホームの構造を知る上に貴重である。

                  ◇

 古い駅舎が次々と建て替えられていく中で、懐かしい駅舎が残っているのを見ると嬉しくなる。

 私鉄最古の歴史を誇る南海電鉄本線には、浜寺公園駅や諏訪ノ森駅(ともに堺市西区)など文化財になっている駅舎だけでなく、高師浜(大阪府高石市)淡輪(大阪府岬町)高野山(和歌山県高野町)など、多くの優れた戦前の駅舎が現役で活躍している。

 その一つが蛸地蔵(たこじぞう、大阪府岸和田市)である。大正3年4月の開業で、駅舎は大正末期築と言われてきたが、最近の調査で昭和2年8月竣工と判明した。

 一般的に駅舎のスタイルは、都市景観上から城下町や門前町の駅舎ならば伝統的な和風スタイル(JR奈良駅や二条駅など)で建てられる傾向にある。しかし蛸地蔵駅は城下町・岸和田の玄関口に位置していながら洋風スタイルで建てられている。開業当時の駅舎のスタイルが、当時の城下町の景観を考える上で気になるところである。

 現在の駅舎は木造平屋建てで、急勾配の半切妻屋根を組み合わせて洋風を強調している。ステンドグラスや照明器具は新しいものだが、照明器具の根本の天井装飾やファンライト(欄間)部分など、ほとんどは当時のままである。

 改修されて古さを感じさせないが、昭和のモダニズム建築の雰囲気をよく残す名建築である。

 当会では岸和田城、市内の旧奉安殿(庫)、複数の旧銀行建築、そして蛸地蔵駅などを文化財に指定するよう関係方面に要望しているところである。

(明治建築研究会・戦争遺構研究会代表 柴田正己)

 【追記】文化財級の煉瓦造建築である旧丹治商会(永楽邸、堺市堺区、平成20年1月13日付け産経新聞掲載)が売却されているとの情報をいただいた。近代化遺産としても重要な明治建築がその歴史的な価値にふさわしく利用されることを市民一同願っている。

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