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2009年01月16日(金) 22時17分

【揺れに耐える「地震に強い社会へ」】(下)マンホールトイレ 普及へ課題産経新聞

 大阪湾にほど近い大阪市西淀川区の中島公園。広域避難場所にも指定されている公園内には、2メートル間隔に110基のマンホールが設置されている。

 直径約60センチのふたを取り外すと、幅約20センチ、長さ約60センチの長方形の穴がある。大規模災害時には穴の上に簡易便器を置き、周囲をテントで覆って仮設トイレとして利用する。

 「マンホールトイレ」。阪神大震災の断水で水洗トイレが使えなくなった教訓を生かし、大阪市が13年前に全国で初めて導入した災害用トイレだ。

 「下水管に直結しているので、水もくみ取りの必要もありません。環境汚染や伝染病の発生など衛生面での問題もなく、災害時に安心して使えるのが特徴です」。市建設局下水道河川部の澤井幸次さんは利点を強調する。

 1基当たりの整備費用は約30万円。導入のきっかけは、震災を経験した職員のアイデアだったが、大阪市は既に市内23カ所の公園で約1300基を設置した。残り9カ所でも順次整備する予定で、計画では約20万人分のトイレの確保ができるという。

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 平成16年の新潟県中越地震で内閣府が被災者1000人を対象にしたアンケートによると、避難所生活の長期化で6割以上の人が「トイレに困った」と回答。「水を飲むのを控えた」人も多く、トイレの回数を無理に減らしてエコノミークラス症候群を引き起こす健康被害も問題になった。

 こんなデータもある。首都直下地震が発生し、東京23区でトイレが不足した場合、約81万7000人が“トイレ難民”になる−。政府の中央防災会議専門調査会が昨年公表したシミュレーションは、災害に脆弱(ぜいじゃく)な都市構造を浮き彫りにした。

 それだけにマンホールトイレの普及は急務ともいえるが、専門家はハード面での不安を指摘する。

 旧自治省職員で阪神大震災では復興を担当した災害トイレ学研究会世話人の山下亨さん(59)は「震災クラスの地震なら地下に埋設された下水管が破損し、機能しないケースも多くなるのでは」と話す。

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 実際、中越地震では埋設土の液状化で下水管がわん曲し、マンホールが隆起したり、沈下したケースは約1450カ所に及んだ。

 国交省が直後にまとめた「下水道地震対策技術検討委員会」の緊急提言では、埋設に際して液状化しにくい砕石の利用やセメント混合による土の硬化などを推奨。その結果、3年後に同じ地域を襲った新潟県中越沖地震では、中越地震後に耐震補強したマンホールの大半で被害がなかったという。

 大阪市でも18年度から5年間で、市内全域の総延長1700キロの下水管網のうち1割について耐震化を図る計画になっている。

 ただ都心を縦断する上町断層帯による直下型地震では、近畿6府県の下水道は150万軒で使えなくなるとの試算もある。

 海溝型の巨大地震である東南海、南海地震も近い将来発生が予測されており、地震対策は待ったなし。地震は避けられなくても「減災」は可能だ。地震に強い街づくりには、1人1人の危機意識が欠かせない。

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 連載は守田順一、池田祥子、白岩賢太が担当しました。

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