米ニューヨークのマンハッタン西側を流れるハドソン川に15日午後3時半(日本時間16日午前5時半)すぎ、USエアウェイズの国内線旅客機が不時着した。米沿岸警備隊の監視船などが急行、救出作業を行い、同社は午後5時ごろ、幼児を含む乗客150人、乗員5人の計155人が全員救出されたと発表した。在ニューヨーク日本総領事館によると、事故機には少なくとも2人の日本人が乗っていたが、無事が確認された。
鳥が2基のエンジン双方に飛び込んだため失速したのが原因とみられている。米国土安全保障省の報道官はテロとの関連性を否定した。
在ニューヨーク日本総領事館によると、不時着した旅客機に乗っていた日本人は、堺商事(本社・大阪市)の現地法人サカイ・トレーディング・ニューヨーク社の滝川裕己さん(43)と出口適さん(36)の男性2人。
現場はマンハッタン中心部タイムズスクエアからわずか二キロ前後で、川岸に立ち並ぶ高層住宅などからは数百メートル。一歩間違えれば大惨事となりかねなかった。AP通信によると、脚を骨折した人はいたが、手当てを受けた78人も大半が軽傷。厳冬の川からの救出劇は、奇跡的といえる結果となった。
米連邦航空局(FAA)などによると、不時着したのはUSエアウェイズの1549便、エアバスA320。ニューヨークのラガーディア空港から北西に離陸直後、南方に方向転換しようとした時点でガンの一種とみられる大型の鳥の群れに突っ込んだ。このため、機体に鳥が当たる「バードストライク」が起きたとみられる。同空港に戻ろうとしたが、飛行を続けられず、滑空しながら高度を下げ、緊急着水した。乗客の1人は左のエンジンが火を噴いたと証言した。事故機はノースカロライナ州のシャーロット空港に向かっていた。
不時着直後、機体は午後4時すぎごろまで上半分を水面に出して浮かんでいたため、数人が水中から救助されただけで、多くの乗客は翼を伝い歩いたり、救命ボートに乗ったりして沿岸警備隊の船や近くを航行していた通勤フェリー数隻に次々と収容された。
機体は同日夕、半ば引き揚げられながらマンハッタン南部の川岸に移動させられた。16日朝からFAAによる本格的な原因調査が始まる。
現場のハドソン川は、ニューヨーク市とニュージャージー州の間を流れている。ニューヨークは15日午後、時折雪が舞い、氷点下8度の寒気に覆われていた。
◆主翼に乗客「怖かった」…凍えた川に沈む旅客機
「本当に怖かった」「死者がいなかったとすれば奇跡」—。雪が降る米ニューヨークのハドソン川に15日午後(日本時間16日未明)、突っ込んだUSエアウェイズ機の不時着事故。機外に出た乗客は、凍える川に浮かんだ機体の主翼にずらりと並び、救助船の助けを求めた。
乗客男性の1人は「エンジンが駄目になって…。最悪だ。女性と子供を最優先で助けようと必死だった」と白い息を吐きながらテレビカメラに向かって話し、別の乗客は「機長から『(不時着に備え)身構えてください』というアナウンスがあった後、爆発したような音が聞こえて墜落した」と恐怖の数分間を振り返った。
旅客機は不時着直後、機体の上半分を水面に出してぷかぷかと浮かんでいるようだったが、徐々に沈み始め、しばらくすると青と赤に塗られた垂直尾翼しか見えなくなった。機体の周りは、数隻の救助船が取り囲んだ。
夜に入ってひときわ寒くなった現場には、救助船からの青いサーチライトがいくつも見える。マンハッタン側の川岸にある船着き場の建物には、毛布にくるまれ、担架に乗った乗客らが続々と運び込まれ、一帯は救助関係者や報道陣が詰め掛け騒然となった。
元全日空機長で航空評論家の前根明さん「水上に不時着して犠牲者が出なかったのは奇跡的で、航空史に残る。ラガーディア空港は近くに湖があり、付近は渡り鳥が多い。両エンジンとも鳥が原因で推力を失うことは非常にまれ。シミュレーターでも着水の訓練はほとんどしないので、機長の着水は百点満点以上だ。主翼が壊れなかったため、内部の燃料タンクが浮きの役割を果たし、機体が沈まなかったのだと思う。エンジンが鳥を吸い込むトラブルは非常に多く、今後も空港が自然とどう住み分けながら“共生”するか考える必要がある」(共同)
http://hochi.yomiuri.co.jp/topics/news/20090116-OHT1T00109.htm