2009年版で2年目を迎えた「ミシュランガイド東京」。フランスからやって来た世界的権威のグルメガイドは、今年も上々の売り上げだという。しかし、その編集方針などに疑問を投げかける声も数多い。幻冬舎社長の見城徹氏(58)は「最低の本。ブランド力で売れているだけ」と厳しく批判。真のグルメガイドを作ることは“慈善事業”のように困難なことだという。
一昨年末、日本に初上陸した「ミシュランガイド東京」は、日本語版と英語版合わせて約30万部をほぼ完売した。09年版も初版30万部(日本語版26万部、英語版4万部)を出荷。「08年版には及ばないが売り上げは好調」(ミシュラン広報部)だという。
そのミシュランを、発売直後から激しく批判してきたのが幻冬舎社長の見城氏だ。昨年に続き月刊誌「ゲーテ」2月号では、自ら誌面に登場。09年版に疑問を投げかけている。
「(08年版と比べると)文章も語尾を少し変えただけだし、写真も角度やトリミングを変えているだけで同じものを使っている。とてもミシュランの調査員が何度も食べて点数をつけているとは思えない。誰かの意見に頼って、テーブルの上で星を決めている最低の本。今年も全く癒着の構造から出ていません」
これに対し、ミシュラン広報部では「好評を得る一方で、さまざまな意見が出るのは、日本に限ったことではなくよくあることです。今後も良い点を守りながら出していきたい。お店とは特別な関係にはありません」としている。
ただ、08年版と09年版を見比べると、写真や紹介文は確かに似通ったものが多い。見城氏は「『ミシュラン』というブランド力の勝利ですよ。売れりゃいいんでしょ。香港版もひどい。なめてるよね、東洋を」と怒りを隠さずに話した。
一方で、ミシュラン上陸で刺激されたかのように“国産”グルメガイドが活気付いている。40年以上の歴史を持つ老舗ガイド「東京いい店うまい店2009—2010年版」(文芸春秋)では本の帯で「フランス人には分からない」と、きわどく挑発。それでも「前の版よりも、売り上げが30%増えた」と編集者は語り、ミシュラン効果を認めた。
また、「日本人ならではの価値観で評価したい」とする日本フードアナリスト協会では、今年秋に独自の格付けガイドを創刊予定。約4000人のアナリストが調査に立ち上がるとともに、イメージキャラクターにはアナリストの資格を持つタレントの眞鍋かをりさんを起用し、盛り上げを図る。
「庶ミンシュラン」(グラフ社)や「メシラン」(講談社)など、ミシュランのタイトルや表紙をもじったものも続々登場。ミシュラン人気に便乗しようと必死だ。果たして、“真のグルメガイド”は生まれるのか。
見城氏は「人々の関心がレストランに向いたことはすごくいいこと」と前置きした上で、「(グルメガイド作成には)膨大な時間と金とエネルギーがかかる。慈善事業のように大変なこと。きちんとしたガイド本はすごく少ないので、そのへんを注意して読んでほしいと思います」としている。
◆ミシュランガイド フランスのタイヤメーカー、ミシュラン社が観光の手引として出版。1900年のフランス編が最初で、世界各地に調査対象を広げた。匿名訪問や同一基準を重んじ、掲載に対する見返りを受けない主義を貫いている。「三つ星」は「そのために旅行する価値がある卓越した料理」と定義され、料理人にとって大きな誇りとされる。一昨年11月刊行の東京編はアジアでも初のガイドで、以降も日本料理への注目が増している。
http://hochi.yomiuri.co.jp/topics/news/20090115-OHT1T00038.htm