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2009年01月15日(木) 23時26分

悲哀…アラブ系イスラエル人 同胞から浴びせられる砲弾産経新聞

 パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム原理主義組織ハマスによって、偶然にも激しいロケット弾攻撃にさらされているアラブ系イスラエル人たちがいる。ガザの“同胞”から浴びせられるロケット弾攻撃は、過酷な運命を背負う人々に、さらなる悲哀をもたらしている。(イスラエル南部ラハト 黒沢潤、写真も)

 体に熱く流れる「血」はアラブ人。だが「国籍」はイスラエル人−。アラブ特有の白いずきんをかぶったイスラエル国籍のマテブ・アブナセルさん(59)は、ハマスによって最近攻撃されたラハトの現場で“悪夢”を振り返った。

 「衝撃的だった。砂漠地帯とはいえ自宅から200メートル。彼らは私の同胞だよ」

 攻撃目標もなくガザから15キロ南東に飛んできたロケット弾から逃れられず、約10メートルの場所にいた長男(12)は身を伏せて助かった。しかし破片が貫通したブリキ小屋の穴(直径3センチ)はその破壊力を示す。

 人口710万人のイスラエルには現在、2割のアラブ系イスラエル人が住む。第2次大戦中、ナチスにより絶滅の危機にさらされたユダヤ人たちが第1次中東戦争を経て正式に独立を果たした際、周辺アラブ国家に逃れられず、イスラエル人となった人たちだ。ラハトにはこのうち、遊牧民ら5万人のアラブ人が住む。

 この街の人々は自らの意思により、国家からの徴兵を拒否できるという。大学で法律を専攻したいという高校生のオスマン・アブサラハン君(18)は「パレスチナ人に銃口を向けたくない。ガザに行けといわれても従軍しない」と、きっぱり語った。こうした若者が半数近くだという。

 地元メディアによれば、この街の問題点は、ユダヤ系住民が暮らす他の街とは異なり貧しいため、ハマスや周辺アラブ国家からの攻撃を防ぐ「シェルター」が自宅にほとんど備わっていないということだ。

 「ミサイル飛来」の緊急事態を伝えるアラビア語放送が充実したのも最近で、水道や道路のインフラ整備も不十分。ユダヤ系住民との境遇の違いは明らかだ。

 今回の600発ものロケット弾攻撃では、別の街のアラブ系住民ハニ・マハッディさん(27)も死亡した。アラブ系イスラエル人社会は今、例えようのない悲しみに包まれている。

 「われわれは今、自分たちを差別する『母国』と、攻撃を仕掛けてくる『同胞』のはざまで、苦悩を余儀なくされている」。ナセルさんは、長年の苦労を刻んだ表情を一段と曇らせ、そう語った。

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