2009年01月15日(木) 21時58分
【芥川賞講評】宮本輝氏「作家として成長した」(産経新聞)
第140回芥川賞に決まった津村記久子さん(30)の「ポトスライムの舟」。選考委員の講評などから選考の経過を振り返る。
15日午後5時から始まった芥川賞の選考委員会には、作家で東京都知事の石原慎太郎氏ら9人が集まった。
今回は、昨年6月から11月末までに、新聞や雑誌などで公表された純文学の短編作品から候補に上がった6作品が対象。選考委員会では2時間近くにわたり、熱い議論がわき起こった。
選考委員の宮本輝氏によると、最初の投票で墨谷渉さんと山崎ナオコーラさん、吉原清隆さんが落選。続いて鹿島田真希さんが落ちた。残ったのが、津村記久子さんの「ポトスライムの舟」と田中慎也さんの「神様のいない日本シリーズ」。この2作について論議が重ねられ、「最終的にはある差をもって津村さんに決まりました」(宮本氏)
受賞作について宮本氏はまず、「底辺に近いつつましやかな生活をしている女性たちの日々の生活、人生がてらいのない文章で描かれている。時代が変わろうが、文学的な普遍的なものであろう」と絶賛。
「これまでの(津村さんの)作品と比べ、はっきりと作家として、小説の組み立てが成長した。文句なしの受賞となりました」と強調した。
◇
この後、続けてあった宮本氏と報道陣との主なやり取りは以下の通り。
−−田中慎也さんが最後に選ばれなかった理由は
「自分の子供は引きこもってしまい、父親はドアの前で日本シリーズのことなどを話す。そんな道具立てが小説の“仕掛け”を作っていたにもかかわらず、文学としては玉砕して、まとまりがなかった。意欲は買うが、賞には届かなかった」
−−山崎ナオコーラさんや墨谷渉さんらが選にもれた理由は
「山崎さんは最初から点が低かった。いままでの作品の方がよかったという声があった。(今回は)のっぺりしすぎて、主人公の女の子があまりにも都合のいい女の子になりすぎていた。いままでのある種、毒をもったものが消えてしまって残念。墨谷さんはフェティシズムの世界を描いていたが、その趣味の世界にないものの立ち入りを禁じ、口出しを許さないようなところがあった。小説は、それとの乖離(かいり)を許すようなものがなければならない。文学のサプライズが人間のミステリアスなどころに入っていかねばならない…。だから、これは文学になっていないというのが大方の意見でした。鹿島田さんについては私自身の感想としては一番良い作品と思い、受賞作に推してもいいと思っていたが、○(マル)をうつ人が1人もいなかった。主人公の女の、あるときは正気なのか、狂気なのか、その境目をうろうろしている、女の怖さは書けているが、女の概念はあっても肉体が(作品中で)伴っていない。小説自体が途中で同じことを繰り返していて、退屈になってくる。競馬にたとえると4分の3馬身足りないという評価だ。吉原さんについては、主人公の少年ともう1人の少年とが(登場するが)、ある1つの(小説作品の)類型から出ていない。よくある小説だ。パソコンのプログラムによる不正処理というネット用語が、物語に加味されただけにすぎない。一番点が低かった」
−−作品全体の傾向は
「そこそこの男と付き合い、結婚し、生活を送っているといったドラマがここ数年、定番になっていた。だが、(そこに)もっと何か、『ポトスライムの舟』のように、学歴も低いし、会社にも就職はしているが派遣とかいうギリギリの生活をしている、何らかの新しいモノを採り入れようとしている傾向が(今回は)ある。国民の中ではおおかたの人はそういう(ギリギリの)状況に置かれている。ポトスライムというのは何の変哲もない葉っぱ、観葉植物ですけど、それを舟として、よるべないこの日本の荒波に揺られているという一つのメタファーでもある。奇をてらうものではないが、私たちのこれからの人生においてある普遍性をもっている。いい小説を選べたと思っている」
−−田中慎也さんの作品のよかった点は
「田中慎也さんらしい濃厚なつくりで、意欲はあると読めますが、親子丼の中に、牛丼にアワビもフカヒレも突っ込んだ割にはご飯が足りないような…。これ以上の表現はないですよね」
−−津村さんの作品はどこが伸びたのか
「文章が良くなりました。これまでは小説をどこか作ろうとしてまして、作り方が素人くさかったのから、少しぬけた。大抵の作家はどこか(作品の文中で)ドラマチックな事件とかを作ろうとするが大体、大きなキズになるのですが、津村さんはあえて書かなかった。それは大きな成長だと思います」
芥川賞候補6作品
鹿島田真希「女の庭」(文芸秋号)
墨谷渉「潰玉(かいぎょく)」(文学界12月号)
田中慎弥「神様のいない日本シリーズ」(文学界10月号)
☆津村記久子「ポトスライムの舟」(群像11月号)
山崎ナオコーラ「手」(文学界12月号)
吉原清隆「不正な処理」(すばる12月号)
芥川賞選考委員は、池澤夏樹、石原慎太郎、小川洋子、川上弘美、黒井千次、高樹のぶ子、宮本輝、村上龍、山田詠美の各氏。
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