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2009年01月15日(木) 19時33分

ご都合主義の米中一体論 政治・社会の多元性軽視産経新聞

 今年、建国60周年、天安門事件20周年など、10年単位の記念日がめじろ押しの中国で、記念行事のトップは、米中国交正常化(1979年1月1日)30周年。カーター元大統領を筆頭に、元高官や歴代駐中国大使らが加わった大型代表団が訪中、北京でシンポジウムなどに参加し、胡錦濤国家主席ら首脳と会談した。

 「世界を変えた」ニクソン訪中(72年)から7年後の米中国交は、中国自身と米中関係を変える出発点だった。78年12月、中国は改革・開放へ大転換したが、その時には数カ月の難交渉の末、米中は正常化で合意していた。いずれも故トウ小平氏の決断による。トウ氏は急務の経済再建には、米国との協調が必要と考えていた。

 カーター氏は今回の胡主席との会談の中で、正常化後、トウ氏を招請した当時を回顧し、「驚いたことに、即刻受諾の返事があり、しかも2週間滞在とあった」と述べた。実際にはトウ氏の米国滞在は1月末から約1カ月に及び、経済協力をアピールし続けた。

 トウ氏の訪米に同行した故李慎之中国社会科学院米国研究所長らは、ドルの調達に奔走したと関係者はいう。中国の外貨準備高は1億ドル余りしかなく、外貨制限は厳格な時代だった。それから30年、中国は2兆ドル近い外貨を保有し、米国債の最大の受け入れ国になった。奇跡的というほかない。

 中国が米国の市場と資本をフルに活用して経済成長を続けた結果だが、それによって両国の関係は緊密化する一方、力関係も大きく変わった。特に世界金融危機で米国が経済・財政危機に直面して以来、米側では中国との協力強化論が一段と強まっている。

 訪中したブレジンスキー元大統領補佐官はシンポジウム(13日)で、持論の「(米中2カ国による)G2」構想を展開、米側には米中一体を表す「中米国(CHIMERICA=チャイメリカ)」という表現も登場した。昨年秋と今年初めに相互開催した米中経済戦略対話では、米側の低姿勢が目立ち、為替レート問題など通商上の摩擦よりも、多面的な政策協調が主要な議題になったという。


 大統領特使として訪中したネグロポンテ国務副長官は記者会見(8日)で、「過去のどの時より良好な米中関係はブッシュ政権の遺産」とし、オバマ次期政権もこの遺産を引き継ぐと強調した。米政権内には対中強硬派は不在と中国紙「環球時報」(9日付)は8年前との変化を指摘する。

 米側の対中積極論を、中国指導部も歓迎しているが、中国の専門家らは概して冷淡だ。金融危機やイラク問題で、中国の協力を得るための実用主義にすぎず、中国独自の立場、利益を守るべし、といったものだ。台湾問題はじめ、中東など地域問題から安全保障問題まで、米中は一体化にほど遠い。

 米中シンポジウムで、熊光楷・元軍副総参謀長は、軍事交流強化の必要性を指摘する一方、中国の最大関心事は主権と領土保全であるとし、台湾問題で米中合意を守るよう要求、台湾向け武器輸出を牽制(けんせい)した。台湾問題に限らず、米中関係は協調と対抗を繰り返してきたが、それは中国政権内の複雑な権力構造の反映でもあった。

 米中一体論は、中国の政治・社会の多元性を軽視したご都合主義にみえる。一体化論者は、中国国内の民主化や人権状況に言及することはないが、民主主義の原理を主張し続ける米国こそ、中国人多数の尊敬を受けてきたことを忘れてはならない。(中国総局長)

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