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2009年01月14日(水) 16時00分

阪神大震災14年:信頼・とらすとK/3 琴平高生と神戸の被災者文通 /香川毎日新聞

 ◇たとえ“聞き役”でも
 県立琴平高の同好会「とらすとK」のOBにはその後も活動を続けるメンバーがいる。
 初代メンバーの奥谷美里(21)は05年1月、友人の松下晴奈(22)に誘われチラシを作り、被災者との「文通」を校内に呼びかけた。しかし、奥谷自身は「文通」はできなかった。返事が返ってきたらうれしいだろうが、返せなくなったら相手に悪い。手紙は書いたが、自分の名前は書けなかった。
 高校卒業後、奥谷は兵庫県赤穂市の関西福祉大に進学した。住まいは神戸市東灘区の祖父宅。同区内には、琴平高からの手紙を被災者に届けてくれた牧秀一(58)主宰の「よろず相談室」があった。
 「よろず相談室」に送られてきたあて名のない手紙を高齢者に配ることならできる。「つなぎ役になれたら」と奥谷は大学入学後、相談室に顔を出すようになった。
 活動は毎月第2、4日曜日。メンバーたちと車で高齢者宅を回った。一人暮らしが多いことに驚いた。何を話していいか分からない。「元気?」「最近どう?」。ほかのメンバーが話すのを隣に座って聞いた。
 やめたくなったこともある。大学とバイトが忙しくなった2年の終わりごろから数カ月、足が遠のいた。メンバーと会うのも気まずくなり、そのままやめようと思った。でも「神戸で生活するのもあと1年ちょっと。頑張ろう」と復帰。訪問先のお年寄りの顔と名前が一致してきた。
 今月下旬、社会福祉士の国家試験を受験するため、先月活動を終えた。今は綾川町の自宅で勉強の毎日だ。最後までお年寄りと何を話していいか分からなかった。「それでも」と奥谷は言う。「たとえ聞くことしかできなくても、たまにしか顔を出せなくてもいいのかもしれない。一人じゃないって思ってもらえることが大切なこと」
 後輩が書いたあて名のない手紙を届けたとき、涙ぐんで受け取ったお年寄りがいた。「本当にありがとう」。活動中、初めて見た涙だった。「相手が誰か分からなくてもこんなにも喜んでくれる人がいるんだ」(敬称略)【三上健太郎】

1月14日朝刊

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090114-00000205-mailo-l37