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2009年01月13日(火) 13時01分

成人式:新成人、震災14年の思い胸に 「心の復興にかかわる仕事を」 /兵庫毎日新聞

 成人の日の12日、県内各地でも成人式が行われた。県のまとめでは新成人は前年より1071人少ない6万397人(男3万901人、女2万9496人)だった。まもなく阪神大震災から14年になる。あの日、小学校入学を目前にしていた子どもたちは、さまざまな思いを胸に人生の新たな一歩を歩き始めた。
 ◇長田で被災の北野さん、臨床心理士を目指す
 「心の復興にかかわる仕事がしたい」
 神戸市長田区に住んでいた京都文教大2年、北野友輝さん(20)=同市垂水区=は震災で自宅が全壊し、たんすの下敷きになった。父に助け出されて逃げる途中、遺体や大火のそばを通り抜け、「怖い」と思ったまま心が何年も凍り付いた。今、大学で心理学を学び、臨床心理士を目指す。
 被災は6歳の時だった。鮮明に覚えている。突然の衝撃、弟の泣き声。父と母が自分を呼ぶが、身動きできない。たんすの下から引っ張り出され、目を開けると空が見えた。
 続いて2階のベランダから脱出。まず母が降り、父が当時2歳の弟を投げ渡した。「やめてー」。泣きじゃくったまま父に背負われ外に出た。向かいの米穀店は完全に倒壊。国道2号のそばを通ると火事の炎で熱かった。道ばたに女性が倒れ、そばで立ちつくす男性。父が声をかけると「今、息を引き取りました」。その後も何人もの遺体を見た。「怖い、怖い」。泣き続けた。
 大阪へ避難して小学校に入学。毎日誰かとけんかした。でも、トイレの扉を閉めて用を足せず、1人で寝られなかった。説明できない不安感があった。小学1年の3学期、神戸市垂水区へ転校すると、少しずつ落ち着いた。
 高校は環境防災科のある県立舞子高に進んだ。当初は消防士を目指したが、外部講師の授業で心理カウンセラーの話を聴いた時、「もしカウンセラーがいたら、幼いころ僕が『怖い』と感じていた気持ちは、どう変わったのだろう」と関心を持つように。大学は臨床心理学部を選んだ。
 震災では「人はこんな簡単に死ぬんだ」と思い、だからこそ「今生きているのはすごいこと」と考える。「命の尊さを実感しているからこそできる仕事を」。声に力がこもる。【辻加奈子】
 ◇父親を亡くした伊藤さん、母への感謝を胸に
 神戸学院大2年の伊藤真衣さん(19)=神戸市中央区=は、震災で父を亡くした。女手一つで育児や仕事に奔走した母への感謝を胸に「卒業したら、お母さんに楽をさせてあげたい」と話す。
 震災当時、伊藤さんは5歳。父啓一さん(当時37歳)は倒壊した自宅の下敷きとなった。小中学生のころは、父親と歩く同世代の人を見て「うらやましさを感じた」という。
 05年、あしなが育英会の派遣で、前年のスマトラ沖大地震・インド洋大津波の被災地、タイに約1週間滞在。現地の子どもたちと交流し、同じ境遇の者同士、心を通わせた。津波で流された建物の跡地を見て、震災とは違う怖さも感じたという。
 将来の夢はまだ決めていないが、母由美さん(45)への恩返しを誓う。「働いて、家にお金を入れたい」。春には啓一さんの墓を訪ね、自分の成長を報告するつもりだ。【金志尚】
 ◇命を大切に生きる 1万人が「はたちの誓い」−−神戸
 神戸市では1万6258人が新成人を迎えた。ホームズスタジアム神戸(同市兵庫区)での式典にはスーツや色鮮やかな振り袖姿の約1万人が参加した。式典に先立ち、震災から復興した現在の街並みがスクリーンに映し出され、全員で黙とうして犠牲者の冥福を祈った。
 特設舞台では新成人を代表して5人が「はたちの誓い」を表明。同市灘区の大学2年、松山綾さん(20)らは「阪神大震災の犠牲者には、私たちともにこの成人式に出席するはずだった人もいます。このことを心にとめて私たちは命を大切にして生きていかなければいけません」と話した。
 式典後、新成人たちは旧友との再会を喜んだり、記念撮影をしたりした。同市西区の大学2年、朝倉里織さん(20)は「責任感を持った大人になり、将来は立派な栄養士になりたい」と話していた。【米山淳】
〔神戸版〕

1月13日朝刊

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090113-00000155-mailo-l28